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「ちょびつき留学英語日記」好評発売中!
未知の世界に飛び込んで、文化的背景の異なる人々と出会い、いつかその人たちのことを書いてみたい——。幼いころからそんな夢を抱いていた著者が、16歳で単身アメリカの高校へ留学。英語がほとんど通じず苦労したり、文化の違いにショックを受けつつも、さまざまな人に助けられながら卒業するまでの3年間をユーモラスにつづった青春記。

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留学日記[大学編]

By Kana Ishiguro / 石黒 加奈

16歳で単身アメリカ留学後、高校を卒業し、コロンビア大学に入学した筆者がトラブル続きの留学生活を振り返る「ちょびつき」留学日記・大学編
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Kana Ishiguro / 石黒 加奈

Vol. 2 : ドアマンのジョー

ドアマンで詩人のジョーは、アフリカ系アメリカ人(African-American)ですが、大陸から来たばかりのアフリカ人のように肌が黒くて、白人の血はほとんど入っていないことが分かります。髪は短く、顔つきも端正で、身長が2メートル近くもあるのに、まったく威圧感を感じませんでした(でも、ほんとうは、ドアマンだから、威圧感ないとね……。ききき)。年齢だって、当時、もう40歳を過ぎていたのに、その表情はとても若々しくて、20歳の私のほうが、連日の課題にやつれた顔をしていました。 私は、ジョーから毎回渡されるさまざまなテーマで詩を書き、指導を受けました。

"Me and my best friend(私と親友)" "Children(子どもたち)" "A seashell(貝殻)" "Love is better the second time around(恋は、2度目のほうがステキ)"…とジョーの考える詩のテーマは、個性的でバラエティに富んでいました。

ジョーは長い詩が得意で、韻を踏んだ連が物語のように何ページも続きます。

それに比べて私の詩ときたらやたらと短くて、

"That's it?"

(それだけ?)

と目が点になりそうな代物です。

でもジョーは、どんなに私が「いまいちかなぁ」と自信のない詩でも、決して非難したり、否定したりするようなことはありません。

その代わり、

"Why did you use that word in the third line?"

(3行目、その言葉どうして選んだ?)

とか

"Can you recite the 5th stanza again?"

(第5連をもういちど暗唱してみて?)

などと、細かく質問してきます。

いつも、私が先に詩を暗唱して、そのあとジョーが彼の詩を読みあげるのですが、どうして、同じテーマで、ここまで違った作品ができるのだろう、と人類の不思議を痛感したりしていました(苦笑)。

また、言葉の使い方にしても、"birth"(生) と"death"(死)は意味が正反対の言葉なのに、どちらもTHで終るんだなぁとか、"come from your mother" (お母さんから生まれる) と "come through your mother (from God)" (お母さんを通して生まれてきた)では、一語違うだけで、まったく異なったことを指しているんだなぁ、とか、普段はあまり深く考えたことがないようなことを、ジョーの詩を聞くたびに気づかされました。

考えてみれば、あたり前のことなのに、どうして自分で気づかなかったのかしらと思うことばかりなのです。

ジョーに分からない単語について質問すると、彼はいつも、意味そのものを説明する代わりに、その言葉が使われそうなsituation(状況)をいくつか教えてくれました。

例えば、"procrastination"という単語を英和辞典で引くと、「ぐずぐずすること、延引」と出ています。でも、これだけでは意味がよく分からないので、ジョーに聞くと、「ほら、試験の直前に試験勉強をしていると、急に部屋の掃除がしたくなったり、手紙が書きたくなったりするでしょう? 普段はぜんぜんしないのに。そういう状況が"procrastination"なんだ」という説明が返ってくる、といった具合でした。

この方法は、基本的な単語を学ぶときに、辞書の意味を暗記するといった古典的なやり方よりもずっと効果があることが分かりました。この頃を振り返ってみると、ジョーの説明のお陰で、英語という言葉と自分の生活との距離が、だんだんと縮まっていった感じがします。

もし、このように単語を覚える機会がなかったら、今、私が感じている英語にたいする愛着は、芽生えていなかったかもしれません。

ある日、ジョーは自分の詩を読み終えると、

"When you choose a word, you have to choose it like you kiss a new-born daughter."

(言葉を選ぶときには、生まれたばかりの自分の娘にキスするみたいに選ぶといいよ) と、真剣な顔で言いました。

"I am not a mother yet."

(そう言われても、ジョーみたいに、赤ちゃんを育てた経験がないからなぁ…)

と私がため息をつくと、

"A poet has the ability to imagine someone else's life as if it was his."

(詩人は、回りの人の生活がどんなものか想像できるものだよ)

と、目をキラキラさせています。

そう言うジョーを見て、私は、しみじみ思ったものです。

ジョーと私には、共通点がただのひとつもありません。育った場所や環境も、肌の色も、背の高さ(ジョー2メートル、あたし1メートル55センチ)も、性別も、年齢も、なにもかもが、まったく違います。

でも、ジョーにはきっと、詩人の想像力が備わっているからこそ、私みたいに、まったく異質な人種に会っても、どこまでも自然に振る舞えるんだな、と……。

ジョーと一緒に話をしていると、そういった数え切れないほどの相違点が、ちっとも感じられないのです。

あえて英語で言うならば、詩人の想像力とは、"readiness" です。それは、どんな状況でどんな人に会っても、共感を持つことができる心の柔軟性のことです。きっと常に人の心を観察しているので、自分とまったく別の人種に会ったときでも、相手に違和感をあたえることがないんですね。

文学を勉強するということは、また、詩を書くということは、そういう"readiness"を養うことなのかもしれません。

それは、私が詩人のジョーに教わった、いちばん大事な"lesson"(貴重で実践的な教え)でした。

つづく

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