11月出版予定の『ちょびつき留学英語日記』(ジャパンタイムズ刊)には、プロのナレーターによる英文テキストの朗読を収録したCDが付きます。私が書いた英文を読んでくださったのはKimberly Forsytheさんという一流のナレーター——テレビCMで"Drive your dreams"、"Benesse for everyone"などのサウンド・ロゴを読んでいる人、と言えばピンと来る方も多いのではないでしょうか。
実はおこがましくも、ちょびつき筆者もエピローグだけ読ませていただきました。当日は、山梨から「特急あずさ」の始発に乗って東京へ(田舎モノは辛い…)。もうすぐ11月だと言うのに、その特急の中ではクーラーがガンガンかかっていました。
「昨日から急に風邪っぽくなって、風邪薬まで飲んでるのに〜」
東京に着くまでの間に風邪が悪化して、声がかすれてしまうのでは、とドキドキしていました(録音の日まで病気にならないでくださいね、と注意をされていたので)。
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顔が引きつるぐらい真剣な表情でリハーサルするちょびつき筆者。
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方向音痴の筆者としては、ほぼ奇跡的に道に迷うこともなくスタジオに着くと、間もなくKimberlyさんが登場。今回、スタジオで初めてお目にかかったのですが、聞きなれている声から想像していた大人っぽいイメージとは違って、細身のジーンズが似合う若い方でした! 笑顔と長いブロンドの髪も印象的です。
さっそく収録開始。やっぱりあの声でしたよ〜(って、あたり前ですよね)。まあ、プロのナレーターさんなんだから、と言ってしまえばそれまでですが、声そのものがきれいなだけでなく、抑揚のつけかた、間の取り方、声色の変え方などなど、すべてが完璧です。とくに、最初から最後まで、ペースの取り方が「メトロノームが身体のどこかに内蔵されているのでは?」というぐらい安定しています。
私のホスト・ファミリーのお母さんのジェインと長男のビリーの会話のところなんかは、ほんとうにジェインが登場したようでびっくりでした。聞いてみるとKimberlyさんも、私の留学先と同じペンシルバニア州出身だということで、発音やしゃべり方がジェインと似ているのかもしれません。
英文のテキストは自分で書いて、今までに何度も繰り返し読んだ文章なので、「長時間の録音に立ち会ったら、居眠りでもしてしまうのでは?朝早かったしぃ」と密かに危惧したのですが、とんでもない! Kimberlyさんが読むストーリーは、自分が書いたものとは思えません。家族に見送られて成田空港から出発するところや卒業式の場面など、Kimberlyさんの朗読を聞いていると、まるで自分が当時に戻ったような錯覚に陥り、思わず涙が流れました。「自分で書いた文章を聞いて、泣かないでください」と、編集担当のIさんに、すかさず突っ込みを入れられてしまいましたが…(笑)。
しかし、そんな感動もつかの間。
「はい、じゃあ、次、石黒さんのエピローグ、いってみましょうか?」
と来た。Kimberlyさんの朗読を聞いて、ますます自信がなくなっていると言うのに!
「いや〜、エピローグ、ほんとうに私の朗読で入れるんですかぁ?」
と、蚊の鳴くような声で聞くと、Kimberlyさんまで
「やっぱり、エピローグは本人の朗読がいいわよ〜!」
と、一蹴。
「編集担当のIさんも『腹式呼吸が出来てないのって、マイクを通すとすぐ分かるんだよね〜』とか、言っていたし…」
と、不安なままスタジオに入るちょびつき筆者。
「とりあえず、練習いってみましょう。時間、たっぷりありますんで〜」
と、サウンド・エンジニアの方にも慰められ、マイクの前に座ると、目の前に読者の皆さんがいるようで、ますます緊張してきます。唯一、助かったと思ったのは、音声は1センテンスごとに修正ができるということでした。何回かリハーサルをして、おかしい点などをコーチングしてもらう筆者。読み終わるたびに、調整室にいるスタッフからの指示が入ります。
「はーい、大丈夫ですよ、よかったで〜す」
と言われて安心していると、「それでぇ」と修正すべき点が次々に…。まずは、声が小さいので、全体的にもう少しボリュームを上げて、とのこと。日ごろ騒いでいるときには「サル!うるさい!」とか言われているのに、どうして、こういう肝心なときには声が出なくなってしまうのでしょうか。
「長いセンテンスになると、後ろにいくにつれて声がどんどん小さくなってまーす」
というダメだしも。
「went overのtの音が、聞こえづらいですよ」
なんて細かい指摘もある。
「意識しすぎると不自然になるから、注意しながらも自然体でね」
と励まされつつ、たった2ページを読むのにずいぶん時間がかかってしまいました。あらためてKimberlyさんのすごさを実感したとともに、自分の仕事が人前で話をすることでなくてよかった、とつくづく思わずにはいられませんでした(苦笑)。
つづく
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