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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 16 : 村上春樹の『Sydney!』から。Mathilda適当編

 夏休み中、子供の遊ぶ時間を優先にしたいというチャリティー精神を発揮したため、スケジュール変更が重なり、本を読む時間は全くなし。夏休みが終わり、本のまとめ買いをしている最中、目に入った「Sydney」の文字。作者を見たら村上春樹! まさか! しかも上・下巻! しかし村上春樹とシドニーの関連が分からず、オリンピックと村上春樹の関連性はさらに分からず。でも、好きな作家だし、オリンピックの個所は省いても読んでみたい気持ちにかられ、抱えた文庫本の山の上にひょいっと置きました。そして、ついでにしては大変価値のある買い物となりました。

 彼が機上から見たオーストラリアの地形の印象からして、私が感じてきたことを思いもしなかった表現で代弁してくれています。「これまでに見てきたどこの土地の風景とも違っている。どこがどう違っているか、うまく表現できないのだけれど、何か全然違う。一目見れば変であることはわかる。それでいて変であることの蓋然性がうまく引き出せない」

 うまく言い切れない国を、うまく言い切らない表現で、うまく言っている点にやたらと感心してしまいます。

 服装にしても、「決して洗練されたものではない。カジュアルで適当である。もしかしたら適当ではないのかもしれないけれど、はたから見ると、そのへんのものを適当に着ているように見える」。私には彼が何を言おうとしているのかピンときます。ときどきオーストラリアに帰る主人の批判はもっと辛らつです。「何とかならんかね、あの身なりは」。

 村上春樹は『約束された場所で』という本で、「書くことで目指しているものは読者のために多くの視座を作り出すのに必要な「材料」を提供すること」と言っています。視座というには大げさですが『Sydney!』(文春文庫)という本が、私の記憶を芋づる式に掘り起こしてくれたのは確かです。その記憶は、放っておくと腐ってしまう、かといってどれだけ価値があるものか、でも書き留めておいてもいいかな、という曖昧模糊(あいまいもこ)としたものです。

 一つ例を挙げると、Waltzing Mathildaというオーストラリア人の愛唱歌。

 筆者が散々こき下ろしたオリンピックの開会式の中でも、この歌だけは気に入ったようですが、「歌詞の意味はほとんど理解できなかった」とか。アメリカの新聞に同様のコラムを発見し、「アメリカ人でもやはりわからないんだ」と書いています。

 でも、村上春樹の訳を読んで、何をかいわんや、この私が歌詞の意味を全く理解せずに歌っていたのに気が付きました。「NHKこどものうた」定番の「調子をそろえてクリック、クリック、クリック」という羊の毛刈りの歌と混同していたのだと思います。Mathildaという名前の羊が野原でダンスしており、そして…(これ以上書くと恥ずかしいので書きません)。本当は「はぐれ者が羊を盗んで自殺する歌」なのだそうです。

 さすが、主人は年の功で、billabong(池)やbilly(飯盒)などの意味を知っていましたが、息子は学校で教わったにもかかわらず、記憶なし。「Mathildaとは、ずだ袋の別名」という解釈に至っては、主人も息子も「えっ?」。村上春樹の翻訳を全文英訳して聞かせたら、「ウッソー」という顔。ちょっとした逆輸入のカルチャーショックでした。

 二人とも「意味を理解しているオーストラリア人はいないよ」と弁明をしていましたが、これに関しては私も本当だと思います。国歌の候補に挙がったこともあるWaltzing Mathilda。日本の「君が代」も意味を理解していない若者が多いけれど、ほろ酔い加減で大合唱するような歌ではないので、仕方がないというところがあります。

 「オーストラリアという国は、「まあいいんだけどさ」とつぶやかざるを得ない状況がかなり多いような気がする。決して悪い意味で言っているのではないけれど」とは筆者の弁ですが、このWaltzing Mathildaも「まあいいんだけどさ」の一つかもしれません。

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