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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 42 : Edna O'brienの短編から

 本との出会いというのは不思議なものです。日本の大学の通信教育を受けるとき、オーストラリアの大学を出ているので学士入学を許可されました。一昔前までは、外国の大学は認知されなかったとのことで、その進歩に感心もし、うれしくも思ったものです。その結果、一般教養は免除されたのですが、外国語は必修なのでやらねばならないと言う。そんなばかな、と憤慨したものの、卒業が目的なので英語を取ることにしました。そして、ある日開いたテキストで出会ったEdna O'BrienのIn the Hours of Darkness。 読みながら苦笑してしまった作品です。

 話は、ケンブリッジに入学した息子を大学まで送っていく母親リーナの心情をエッセー風に書いたものです。彼女は息子と離れる寂しさとともに、大学や町にしっくりいかない気持ちを抱いています。しかし、私はこのリーナの寂しさに同情したわけではありません。正直言って、息子がイギリスに行くとき、私にはそんな感情はなかったし、彼の在学中、オックスフォードを一度も訪れたことがありません。

 これには断固とした理由があったわけではないのですが、あえて書くならば理由は二つあります。一つは彼の性格でしょうか。おとなしい割には小さいころから人見知りしない性質で、2歳半ごろ試しに連れていったプレースクールでは、さっさと一人で中に入り、初日だからと早めに迎えに行ったのに、家に帰るのを嫌がり柱にしがみついて大泣き。こんなだったので10歳のころ一人で日本へ行かせたこともあります。さすがにこのときは、カンタス版「ちびっ子一人旅」のバッジを付け、職員と一緒に税関を通るとき困惑したような顔をしていましたが、迎えに行った母の話では、機内で隣席した日本人のお姉さんと仲良くなり、至極ご機嫌で成田に着いたとか。そんな調子なので、精神的に参るという心配はなかったし、また、そんな性格だから、本人も独立した生活を早く始めたいのだろうと思っていたからでした。

 あと一つの理由。これが、短編の中の母親リーナが経験したことに関連します。この作品は1972年に書かれたものですが、私も息子が生まれる前(1977年ごろ)に主人と英国を旅行をし、ケンブリッジを訪れました。リーナはホテルに着いて、The hotel at Cambridge was not what she had imagined.と言っていますが、この描写を読むかぎり、私たちが泊まったホテルと同じではなかったかと思われます。

 まずは、中が入り組んでいて、部屋に行くのにくねくねと曲がった細い階段を上り、廊下の隅には、リーナが言う通りマットレスや赤ちゃん用のコットが置いてありました。部屋は、シミのついたオレンジ色のカバーがかかったベッド、プラスティックのランプシェード、メタルのハンガーなどその安っぽさが書いてあり、読みながら私の記憶もよみがえってきます。それは大学の美しい建物と対照的で、ケンブリッジという大学に息子が入ったことと、その息子と離れるという、美化された母親の寂しさを裏切り、がっかりしている様子が手に取るようにうかがえます。

 私の場合、ケンブリッジのホテルに失望したから行かなかったというのではなく、ケンブリッジやオックスフォードは、古い歴史と共に実際にそこで勉強することに価値があり、母親の立場に立ってみると、朝靄や夕日を背景に撮った幻想的な写真のほうがずっと学生生活への想像をかき立ててくれるのではないかと、そんな感じがしていたからでした。もちろんその背後に、泊まったホテルの印象があることは否めません。

 確かに写真は、アイヴォリー監督の映画やブライズヘッドのTVシリーズなどと共に、私に美しい映像を与えてくれました。私のこの「知らぬが仏」的信条は、息子の生活が目に入らない域、言い換えれば、心配する要素がなくなる遠方に息子が行ってほしいという願いとも通じています。ですから、リーナがホテルに戻り、ダンスの騒音があまりにひどいため息子の部屋に泊まろうとカレッジに向かう途中、初日にして夜遊びに出かける革ジャン姿の息子と出くわし、お互いに気まずくなって、違うホテルに泊まろうと決意した個所を読んで思わず苦笑してしまったのです。

 ただ、気になったことが一つありました。それは、リーナはカレッジがアレンジする新入生歓迎晩餐会に出席する目的もあってケンブリッジに行ったということです。私にしてみれば「えー。こんなことあったの?」というのが正直なところ。息子に肩身の狭い思いをさせたのではないかと気が重くなり、さっそく聞いてみたら、入学時の懇親会はオックスフォードではやってないとのことでほっとしました。私自身のためにも安どしました。リーナが感じた以上に、場違いからくる居心地の悪さを感じたでしょうから。しかし後日息子から、保護者やゲストを囲む食事会は毎週あったと聞き、再度気が重くなりました。シドニー・オックスフォード間の距離に言い訳を見つけ、「仕方がないか」と自分を慰めたのですが、待てよ、主人が訪れたときもそんな話はなかったと気がつき、本人が、親と一緒に食事会などに出席するのはまっぴらゴメン、というところではなかったかと想像します。

 格調の高い食事も、調理はさすがイギリスという感じで、固い雷鳥(grouse)と取っ組んでいるリーナの姿は笑えます。私もケンブリッジのホテルで思い出すのは食べ物です。バーのメニューに酒のつまみとしてsweet potatoというのがあり、興味がてら注文したら、大量のチーズが出てきました。私の英語の問題かと気落ちしながらチーズの山をつついていたら、出てきましたね。2本のゆでたサツマイモが。なかなかおいしかったですよ。でも、これも30年近く前の話。ロンドンには近年、美味なレストランが大変な勢いで現れているとか。ケンブリッジのホテルも変わっているかもしれません。暇を見つけてもう一度行ってみたい気がします。

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