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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 63 : エッセー再考

 私がオーストラリアの大学で一番苦労したのはエッセーでした。そしてシドニーの中学2年生のエッセーを2回に分けて掲載しました。理論的思考の訓練を義務教育の中で受けている欧米の子供たち。エッセイストの藤原正彦氏は『祖国と国語』(新潮文庫)の中で、「論理的思考や表現に弱い日本は、外交交渉などで大きく国益を損なう」と警告し、次のように記しています。

 「アメリカの大学で教えていた頃、日本人学生がアメリカ人学生との議論で、太刀打ちできずにいる光景は何度も目にした。語学的ハンデを差し引いても、なお余りある劣勢ぶりだった。…当時、欧米人は「不可解な日本人」(inscrutable Japanese) という言葉をよく口にしたが、不可解なのは日本の思想でも宗教でも文学でもなく、論理面での未熟さであったように思う」と自分の経験を述べた上で、「ボーダーレス社会が進むなか、阿吽(あうん)の呼吸とか腹芸は外国人には通じない。また、このままでは国益を損なうことになる」と言及します。

 さて、その対策として藤原氏は、「国語を通して物事を主張させることが最も効果的」と言うわけですが、これは少し理解に苦しむところ。日本の教育は受身的なので自由に討論させる必要があるということか、日本語自体が論理的なので、論理的思考を学ぶのに適切だと言うのか、また、英語より国語に力を入れろ、という主旨なのか。私にしてみると、どの点も一応は賛同はするのですが、論理的思考の訓練に関する限り、何かが欠けているような気がします。

 私の経験から申せば、欧米の理論的な思考の根底には「主題・展開・結論」という型があり、この型を導入しない限り、骨折り損だと思うわけです。欧米の子供たちはその型を義務教育から訓練されているので、海外に出た日本人が太刀打ちできるわけがありません。

 ただ単に、恥ずかしがらずに自分の意見を言うだけのためならば、話し合いの場を多く設けるだけで上達するでしょうし、藤原氏もこの点で、「日本人が口舌の徒になる必要はない」と釘をさしています。しかし、国際会議のように、相手を納得させるような論争の技術を養うのには、やはり「主題・展開・結論」というエッセーの基本を教育機関でたたき込む訓練が必要です。

 面白いことに、逆に、自己主張の強い欧米文化をけん制する欧米人もいるのですね。最近、マイケル・プロンコ著の『僕、トーキョーの味方です』(2006年出版:メディアファクトリー)という風変わりな本を読んだのですが、著者によると、「英語の essay は「試みる」「企てる」という意味のフランス語から生まれたもので、著名な思想家モンテーニュは、一人称で思いつくままに自分の考えを書こうと essay した最初の一人であり、その意欲に僕は共鳴する」と言うようなことが書いてありました。その時私は、「なんだ! 日本の作文は本来の意味におけるエッセーだったのか…」と鼻をへし折られた感じがしました。

 プロンコ氏は加えて、「(外国人が書いた)日本人論のように、結論を出し、証明する必要はない」と、欧米のエッセーの流れに批判を加え、本来のエッセーは「謙遜の精神があり、奥深く探究し、疑問をなげかけ、わかりやすく語りかけるものだ」と言っています。しかし、この日本人の「謙遜」が欧米の大学や国際舞台では受け入れられないのだから皮肉です。そしてプロンコ氏は日本に住む欧米人であり、ボーダーレス社会に直面して、行き場を求めている日本人とは一線を画します。生き残りのためには、藤原氏の言う、「いつまでも「不可解」という婉曲な非難に甘んじているわけにはいかない」という方向に向かわざるを得ないのではないでしょうか。

 「作文」は本来のエッセーとして美点もあり、この伝統を日本の教育から消す必要はありません。しかし、国語に論理的思考訓練の導入を、という願いは、押し流され気味の国際会議の現状もさることながら、これから欧米の大学での勉強を夢見る若い留学生のためにも切に思うところです。

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