英語俳句の作り方
■英語俳句とはどんなものか
日本語俳句と同じ点・異なる点
英語俳句を作る上で、日本語俳句と
同じように留意すべき点は、(1) 簡潔
性を追求すること、(2) できるだけ季
節感を大切にすること、(3) できるだ
け5―7―5音節で書くこと、(4) 一
句の中に「切れ(字)」(や、かな、けり)
を入れること、(5) 考えや思想や概念
よりも、物を提示する詩にすること、
(6) 説明文や散文にならないように気
を付けること、です。
一方、異なる点は、(1) 季節感あるい
は季感は日本(語)と外国(語)では異
なるので、季節の感じが出ていればよ
いこと、(2) 一行書きの日本語俳句と
異なり、3行書きにするのが普通。5
―7―5音節だと盛り込む内容が多く
なり過ぎるので、必ずしもこれにこだ
わる必要はなく、2―3―2音節くら
いでよいこと、(3) 切れ(字)はダッ
シュやコロンなどで表すこと、です。
例えば、下の句をご覧ください。
graduation day—
my son & I side by side
knotting our ties Lee Gurga
(Lee Gurga, Haiku: A Poet's Guide
[Modern Haiku Press, 2003], p. 35)
(卒業式の日/息子と私が並び立ち/ネクタイを締める)(拙訳)
この句は、日本とは異なるアメリカ
での卒業時期の季節感があり、音節は
5―7―4であり、ダッシュで切れて
います。ここには複雑な概念は何もあ
りませんが、親子の卒業の喜びが含ま
れています。
idle summer day
sucking meat
from a fig Michael McClintock
(Haiku: A Poet's Guide, p. 131)
(夏の暇な日/果肉を吸う/イチジク
から)(拙訳)
上の句は、ダッシュもコロンもあり
ませんが、day で一度切れており、音
節は4―3―3しかありませんが、情
報量は十分です。イチジクという果実、
つまり物が中心にあって、イチジクの
果肉を吸うことが夏の暇な一日をよく
表しています。
英語俳句の独自性
短い音節に多くの情報量を盛り込め
る上に、日本にない情緒を取り込むこ
とができます。イメージ優先で文法に
さほどこだわる必要がありません。例
えば、次の句をご覧ください。
long day
the chameleon's
tongue John Stevenson
(Haiku: A Poet's Guide, p. 85)
(日永/カメレオンの/舌)(拙訳)
芥川龍之介の「青蛙おのれもペンキ
ぬりたてか」を想起させる句ですが、
青蛙(日本的)とカメレオン(西洋的)
という発想の違いも面白いところです。
autumn wind ...
the rise and fall
of sparrows John Wills
(Haiku: A Poet's Guide, p. 91)
(秋風/上昇と下降の/雀たち)(拙訳)
この句の音節は3―4―3で、極め
て短いのですが、難しい言葉は一つも
使わずに、簡潔に秋風のさわやかさを
言い表しています。この場合「切れ」
は"..." になっており、必ずしもダッ
シュやコロンでなくてもよい好例です。
英語俳句を作る意義
アメリカでは小学生に俳句を作らせ
る授業が必ずあるように、作法の複雑
なソネット(14行詩)などと違い、比
較的制約のない中で、英語で一つの詩
を作るという達成感が味わえることで
す。文法にこだわるよりも、単語(名
詞)の羅列による詩的な「ハイク・モー
メント」(一瞬の俳句的発見)があれば、
よい詩を作ることができます
his side of it.
her side of it.
winter silence Gurga
(Haiku: A Poet's Guide, p. 74)
(彼の側と/彼女の側に/冬の静寂)
(拙訳)
■表現の工夫の仕方
できるだけ "I" (私) を使わない
ただし、"my" などを使う場合は、
次の句のように効果的に使うことです。
cold dusk—
my thoughts pass through
a crow flying by Tom Clausen
(Haiku: A Poet's Guide, p. 93)
(寒い夕暮れ/我が思いが移ろう/飛
び去る烏)(拙訳)
冠詞の使い方にとらわれる必要はあ
りませんが、不定冠詞の場合、ここで
の名詞「烏」が単数か複数では意味が
違ってきます。それを英語俳句の場合
は言語の性格上、明確にしなければな
りません。
Be 動詞、冠詞、前置詞を省略
これらを省略することで、簡潔な表
現にまとめることができます。
winter rain
the snowman
bows his head Paul David Mena
(Haiku: A Poet's Guide, p. 87)
(冬の雨/雪だるまが/頭を垂れる)
(拙訳)
この句では、"in winter rain" とも
すべきところを、in を省き、その後で
切れることによって、「冬の雨が降っ
ている」と言い尽くす必要がなくなり、
散文化することを防いでいます。
■投句の際の留意事項
これまで英語俳句の特徴について述
べてきましたが、この企画で英語俳句
を投句される場合、留意していただき
たい点を改めて以下にまとめてみまし
た。
(1) 3行書きにし、(2) できるだけ現
在時制で、(3) 音節の少ない単語を使
い、(4) 各行5―7―5音節以内、でき
るだけ2―3―2くらいにし、(5) 季
節感を盛り込み、(6) 動詞や形容詞で
はなく、できるだけ名詞を使用して散
文化しないようにし、(7) ダッシュや
コロンなどで一句のなかに「切れ」を
作り、(8) 冠詞や文法に過度にこだわ
らないこと。
次の例は、イギリス俳句協会の機関
誌最新号から引用した、最新のイギリ
ス人俳句作家の作品です。
spring sun
in the corner of a window
the spider begins Mark Rutter
Blithe Spirit 19 (2) (June 2009)
(春の日/窓のすみから/蜘蛛の巣が
始まる)(拙訳)
この句は3行書きになっており、
"sun" のような単音節の短い単語を使
用しています。音節は3―8―4で、
特に音節にこだわっていません。通例、
sun にはthe が必要ですが、ここでは
省略されています。用言は "begins"
だけで、しかも、現在時制です。春の
季節感を盛り込んでありますので(蜘蛛
は夏を表すので、日本語の俳句で言
えば季節が一句の中に2つある「季重
なり」になっています)、春の季節だと
おのずから分かります。"spring sun"
で最初に切れて、次につながっていく
ことが分かる場合は、ダッシュやコロ
ンなどは不要です。
最後に表記の仕方について触れてお
きましょう。現代の英語俳句は、3行
とも小文字で書き出すのが主流です
(1行目の最初だけ大文字にする人も
いますが)。私(I)も小文字にする人は
いますが、あまり一般的ではないので、
I や固有名詞などは大文字にして、ほ
かはすべて小文字にした方が無難だと
思います。
また、現在では3行とも行頭を左端
にそろえるのが主流ですが、中には1
行目と3行目を、または2行目と3行
目の行頭を意図的にインデント(数文
字分空けること)させる場合がありま
す。これは作者が創作の一部として行
なっている工夫です。
以上、英語俳句について駆け足で説
明してきましたが、まずはあまり難し
いことはお考えにならずに、一句ひ
ねってみることから始めてください。
徐々に表現の勘どころが見えてくると
思います。皆さんの投句を楽しみにお
待ちしています。
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木内 徹(きうちとおる):日本大学教授。東京都渋谷区生まれ、横浜市立大学英文科卒、
早稲田大学大学院博士課程修了、博士(国際
関係)。国際俳句交流協会理事、俳人協会幹事
(国際部副部長)、俳誌『貂』編集長。句集に
『紫荊』(角川書店)、訳書にリチャード・ライ
ト著(渡邊路子との共訳)『俳句(HAIKU)—
この別世界』(彩流社)。
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