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留学日記[高校編]

By Kana Ishiguro / 石黒 加奈

16歳で単身アメリカ留学。わからないことだらけのアメリカでの生活を振り返る石黒加奈の「ちょびつき」留学日記・高校編
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Kana Ishiguro / 石黒 加奈

Vol. 12 : 湾岸戦争

マラー家での2週間のクリスマス休暇が開けて、学校に戻ってからすぐのことでした。

夜になると学生たちは、テレビの前に集まって MTV の代わりにニュース・チャンネルを見るようになったのです。

ジョージ・スクールは、キリスト教の一派、 Quaker (クエーカー教徒)によって創立された学校です。Quakerの特徴のひとつは絶対平和主義という信念にあって、1991年の湾岸戦争時には、礼拝の頻度や時間がいつもより大幅に増え、毎日のように平和のための議論や祈りが繰り返されました。

1月17日に多国籍軍がイラク、クウェート領内に空爆を開始するまでの数日間に校内を漂った重苦しい空気を、今でもよく覚えています。

留学生ばかりが集まった英語のクラス(ESL)には、West Bank (ヨルダン川西岸) 出身の Adla (アドラ) という女の子がいました。彼女は16歳の私より2つか3つ年下で、まだ小学校を卒業したばかりのように、わがままで幼い感じの女の子でした。

この時アラファト議長はフセイン支持表明をしていたので、戦争が始まってからは West Bankも不安定な状況でした。国に帰れないアドラは、家族のことを心配しながらもアメリカに残らなければならないという苦しい選択を強いられていたのです。

当時私は、政治的なことは、ぜんぜん分かっていなかったけれど、親や友だちと離れて暮らす寂しさだけは、多少なりとも知っていました。

ましてや電話が通じなくなったりして親しい人たちの安否が分からない状況では、どんなにか苦しいだろう、とアドラを見るたびに心が痛みました。

私は、お父さんから誕生日にもらった銀のブレスレットをアドラにあげて、慰めるような言葉を何度かかけたけれど、彼女はもうろくに返事もできないほど、傷ついて疲れきっている様子でした。

そこで私はアドラのために、千羽鶴を折ってあげようと思いついたのです。

鶴を折る私を見て、寮の女の子が数人集まってきました。

「これ、なあに? なんのために作るの?」

と聞かれました。

"For Adla" (アドラのためによ)

と答えると、それなら折り紙にすべて

"For Peace" (平和を願って)

という言葉を書いてから折ろう、と言うので、鉛筆で一つひとつに書き加えることにしました。

しかし、この期に及んで私の英語のレベルでは千羽鶴の折り方が説明できない!

"Look at me and do as I do." (あたしがやるのを見て、まねして折ってね)

などという簡単なフレーズも言えず、折り紙と自分の手を指して

"Look." (見て)

とだけ言った私。

ほかの子たちも次々に集まってきて、折り方を確かめ合いながら熱心に折ったので、数日で鶴はかなりの数になりました。

私は、しばらくしてから鶴を数える役に回ったのですが、中には形がそうとうイビツなものもありました。

「これ鶴じゃなくてニワトリじゃん」

とひとりで苦笑いしていたけれど、

「心はこもっているのだから、しゃーないか」

とニワトリにも糸を通しました。

完成した千羽鶴を持ってみんなでアドラの部屋へ。

でも私の記憶では、アドラはこの時、喜びませんでした。

「喜ばなくてあたりまえだよね…」

と私は、すでに知っていたことを再認識させられたような気持ちでした。自分の家族の生死も分からない状況にいる子をどうして慰められるというのでしょう? 私はアドラのためというより、自分のために鶴を折っていたのかもしれません。そうすることで、なにもできない虚しさをかき消そうとしていたのかもしれません。

私は、ふっとこの話を自分が通っていた山梨英和高校のクラス・メートに知らせたいと思いました。戦争をしている国に留学していると、どんなことがあるのかを、そのまま伝えたいと思ったのです。

「鶴を作ったけれど、それでもアドラを慰められませんでした」

確か、そんな内容の手紙を出したと思います。

それから数週間経った、ある日、日本からダンボール箱がひとつ届きました。箱には、クラス・メート全員から励ましの手紙と千羽鶴が入っていました。にわとり(?)の混ざっていない、きれいな千羽鶴でした。

世の中には、千羽鶴で慰められる悲しみと、そうでない悲しみがあることを知った貴重な体験でした。

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