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留学日記[高校編]

By Kana Ishiguro / 石黒 加奈

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Kana Ishiguro / 石黒 加奈

Vol. 20 : 休み明けのアセンブリ・デビュー

春休みが終わると、私を待ちかまえていたのは、全校集会(assembly)でピアノを弾くという大役でした(このへんの経緯は前回お話ししたとおりです)。 ジョージ・スクールでは、毎週月曜日と金曜日にアセンブリがあり、そこでは、校長先生のお話があったり、講演会、音楽や劇の発表会が行われたりします。

アメリカでは、学級とかホーム・ルームとか呼ばれるものはないので、みんなが集まる時間はごく限られていて、このアセンブリと礼拝のときぐらいしかありません。

全校生徒プラス、先生、それから芝刈りのスタッフからダイニング・スタッフまで合わせて500人を超える人たちの前で、このあたしが、ピアノ弾くんすか、ほんとうに、いいの? という感じ。緊張して、途中で止まったらどうするのさ? とか、いろいろな思いが心をよぎりました。

アメリカの学校のいいところは、教科の成績だけでなく、スポーツ、芸術活動、社会貢献などに、同じように重きを置いて生徒を評価してくれることだと思います。大学の願書にも、成績表やSAT(大学進学適正テスト:日本の「センター試験」のようなもの)などの点数以外にも、そういった活動について詳しくPRできる欄が設けてあります。

私は英語ができなかったので、こういった成績以外のところで活躍(?)できる場を与えたい、という気持ちが、アドバイザーのアネット先生に強かったのかもしれません。しかし、そんな先生の愛情を当時の石黒が理解できるはずもなく、 「あたしは、なるべく目立たないように生きていきたいんだよ。とほほ」 とため息をついていました。

とはいえ、いよいよアセンブリの日が近づいてくると、日本では、だいぶ練習もしたし、頑張らないと! という気持ちも湧いてきました。発表の前日、日本にいるピアノの先生に電話をすると、
「恐いところは、踏み込んで弾くんだよ。苦手なところになると、恐くなって、手が浮いてミスタッチをするから」
とアドバイスしてくださいました。

私はプロのピアニストを目指したことはないし、そのテクニックときたら、当時の英語よりは、少しマシかな〜というぐらいで、お粗末なものでした。ただアメリカでは、日本よりピアノを習っている人がずっと少ないので、音楽大学を目指している人でもないかぎり、ちょっと珍しがられるというのはありました。

いよいよ本番へ。

上級生でピアノを習っている人もいるのですが、なぜかこの日のアセンブリでは、私がいちばん最後に登場するというプログラムに!

気持ちに余裕などないはずなのに、
「これは、紅白歌合戦でいうところのオオトリだね」
と、なぜかくだらないことを考えながら、ステージにあるピアノの前へ。緊張のあまり、まるで雲の上にいて、ふわふわする鍵盤を弾いているかのような気分のうちに、パフォーマンスが終わりました。

ピアノの前の椅子から立ち上がると、喚声が上がり、みんなが拍手しながら立ち上がって私の名前を呼ぶのが聞こえました。

「ああ、みんなは私の名前を知っているんだ」
と、急に冷静になって思いました。

ステージ脇には、ベティ先生やアネット先生、そのほか上級生が待っていて、次々に
"Good job, Kana!"
(よく、弾いたじゃない!)
と抱きしめてくれましたが、身体がガタガタ震えていました。

"That was Kana Ishiguro. Please come back onstage again!"
(今の演奏は、石黒加奈さんです。加奈さん、どうぞ、ステージにもういちど戻ってきてください)
司会の人がそう言ったのですが、私は恥ずかしくて、ステージの脇からちょっと顔を出して、軽くお辞儀をするのがやっとでした。ついでに、履きなれない銀の靴のヒールがすべって転びそうでした。

演奏が終わって、教室へ行くとみんなが声をかけてくれました。それは、留学して初めてのことでした。

かくして、春休み中に猛特訓を受けた甲斐があり、なんとかアセンブリを終えることができました。しかし、
「あの子は、ピアノを弾くんだね〜、英語はしゃべれないけど」
という印象を学校全体に与えてしまった私は、その後の高校生活3年間、毎年休み明けにはアセンブリでピアノを弾くという使命を背負ってしまったのです。またまた、とほほ。

それでも、この発表会を通して私が学んだことは、ピアノの先生がおっしゃった言葉の通り、「恐くなったときは、逆に勇気を出さなければいけない」という人生の教訓でした。

それで、アドバイザーのアネット先生に
"You know, I didn't learn much about playing the piano, but I think I learned more about life through playing."
(ピアノのレッスンを通してピアノを学んだというより、自分の人生について、どう生きていけばいいか学んだ気がします)
と話すと、
"That's a sign of good learner. A good learner knows that it's not only about playing the piano or reading books. It's how you apply these things to your life."
(それは、いい生徒という証拠よ。学ぶのが上手な人は、ピアノをやっても本を読んでも、それで終わらないの。そうしたことを自分の人生にどう応用していくかが分かっているのね)
とおっしゃってくださいました。

そして、今思えば、たとえ英語ができなくても、ほかに取り得(?)を見つけて、それを発表できる場を与えてくれたことに「アメリカの良さ」を感じます。

もし私がピアノを弾けなかったら、自分は言葉はうまく話せないし、髪や目の色もみんなと違うけれど、いろいろな思いを持ったひとりの人間なんだ、ということを、きっと伝えられなかったでしょう。

私はプロの音楽家ではないので、「音楽は世界共通語だ」とまで言えるような技術はありませんが、ピアノという楽器はどんなに下手な人が弾いても、弾く人の人間性が出てしまうものなんだな〜と、何度も実感したアセンブリの発表会でした。

卒業前の最後のアセンブリでは、ルームメイトのエレイナが特別に短いスピーチを考えてくれて、英語でスピーチまでしてしまいました(そのときはピアノより、そのスピーチのほうが緊張したという噂もある)。

そのスピーチを聴いて、ホスト・ファミリーのお母さんとエレイナのお母さんは、日本から来たばかりの頃の私を思い出して、観客席で涙を流していたそうです。

つづく。

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