私は高校3年間、秋になると、フィールド・ホッケーというスポーツを楽しみました(第8回参照)。
英語が苦手だったので、チームの中ではいつも、おとなしくて目立たないプレイヤーだったと思います。けれども、2年生の秋のシーズンは、そんな私にも特別な活躍の場を与えられた、思い出深いシーズンになりました。
9月に新学期が始まって、練習の初日、ウォーター・ボトルとシン・ガードを持って、フィールドに行ってみると、担当のコーチは、まず、
「今日はチームのキャプテンを決めますので、皆さん、目を閉じて挙手してください」
と言いました。
そして、候補者の名前を順に読みあげたのですが、なぜか、その中に私の名前が入っていたのです。
「へーっ、だれが推薦してくれたんだろう?」
と不思議に思っているうちに、多数決が採られました。
「結果が出ました。このシーズンのキャプテンは、Kana Ishiguro です」
とコーチ。私は、自分の耳を疑いました。
"Why me?"(どうして、私が?)
なぜ自分が選ばれたのか全然わからないまま寮に帰って、そのことをアネット先生に話すと、
「あたしは、そうなると思っていたわ」
と、冷静に言われて、うれしいやら、ますます混乱するやら。
それでも、あとになって私がようやく思い当たったのは、自分は英語ができないために、いわゆる「不言実行」タイプの選手だという印象をチーム・メイトが持ってくれて、信頼してくれたのではないか、ということです。また、同じ理由から、自分がしゃべるよりも、人の話を聞くことのほうが多くなっていて、それが評価されたのかもしれません。
そうか! 英語ができなくておとなしいと、結構いいことあるじゃん! と急にワクワクしてきて、キャプテンに選ばれたことが素晴らしいことに思えました。
いいことがあると、すぐに「ちょびつく」筆者のことです。日本の車のように小さくて小回りがきくうえに、足の長いチーム・メイトと比べると重心が低く安定している私は(苦笑)、いつも守っていた右のフォワードの仕事にもますます力が入るのでした。
フォワードはとにかく点を入れるのが仕事です。フォワードの後ろにはリンクと呼ばれる(サッカーでいうミッド・フィールダーのようなポジション)選手、そしてさらに後ろには、2層のディフェンスとキーパーがいて、試合中には、守りを固めているそのチーム・メイトたちから、
"I got your back!"(後ろは、ガッチリだよ!)
と何度か声が掛かります。
フォワードは、前へ前へと、猛スピードで進まなければならないので、後ろを振り返って味方がいるかどうか、確かめる余裕はありません。ですから、「ミスして、ボールを相手に取られたり、取りこぼしたりしても、カバーしてあげるよ」という意味の、"I got your back."という声の近さだけを頼りに敵陣へ走り込むというわけです。
こんなふうに私は、みんなのサポートのおかげでたくさんのゴールを決めることができ、ゲームの面白さを味わうことができたのです。
チーム・メイトの声から勇気をもらって、いい試合ができた日は、片方の肩からスパイクを下げ、もう片方の肩でスティックを支えながら寮へ帰る道々、
「人生は、支えてくれる人がいたほうが、何倍も力を出せるんだろうなぁ」
と、青春ドラマのように、夕日を眺めながらよく考えました。
ところで、そんなチームメイトへの私の恩返しと言えば……。
キャプテンの仕事の中でいちばん重要なのは、試合の前に、選手一人ひとりの郵便ポストにキャンディとちょっとしたメッセージ("Fight!"とか"Win, win, win!")などを入れることでした。これは、学校の慣習のようでした。
おーい、キャプテンって、もっと格好いい役じゃなかったの〜と、苦笑いしながらも、チームのみんなに感謝を込めて、毎週、ゲームのある日は、せっせとキャンディ(ときどき特別に日本のもの)を配りにいそしんだ私でした。
つづく。 |