まだアメリカの高校に留学したばかりの1990年のこと。
アドバイザーのアネット先生には、ことあるごとに、
"Think positive, Kana."
(前向きに考えなさいね、カナ)
と、励まされていました。英語ができないせいで、学校や寮生活、放課後のスポーツなどの場で、失敗したり恥ずかしい思いをしたりすることが多かったからかもしれません。
アネット先生は、いつもちょっと低めの落ち着いた声で静かに話しかけてくれるので、妙にストンと飲み込めましたが、落ち込んでいるときに、
"Stay positive!"
(プラス思考よ〜ぉ!)
なんて、寮のアメリカン・ガールたちに軽いノリで背中を押されても、たいてい
「そりゃ、あたしも前向きに考えたいんだけど、どの授業へ行っても絶望的なんだもん…。元気出せとか、プラス思考なんて言われると、もっと落ち込むんだよな〜」
と、すっかりpessimistic(悲観的)になっておりました。
最近、うつ病の人には「頑張って!」は禁句である、などという話をよく聞きます。
「こんなに頑張っているのに、これ以上、どうすればいいって言うの!?」
と、患者さんをさらに追い込むことになるからだそうです。
ところが、20代の後半から、いろいろな自己啓発の本を読むようになり、人生を幸福に生きるgreat wisdom(大いなる知恵)の一つは、どうも、やっぱり「プラス思考」なのかな、と考えるようになりました。
というのも、友人がニューヨークへ行った折に、
「ブリトニー・スピアーズも、リハビリ・センターに入るとき、これを持っていったらしいのよ〜。DVDも出ていて、アメリカではベストセラーよ〜」
と言って、"The Secret"という本を貸してくれて、まさに、その本こそ究極の「プラス思考のススメ」なのです。
最初は、心の中の"cynical(シニカル)な虫"が、「こんなことできるわけないよ〜」なんてささやいているのですが、読みすすめていくうちに納得できる個所もありました。
例えば、この本の中で最も重要なコンセプトになっている"law of attraction(誘引力の法則)"がそれです。要は「類は友を呼ぶ」みたいなもので、
1)明るい人の周りには、明るい人が集まってもっと明るくなる
2)前向きで幸せな自己イメージを持っていると、そういう自分になっていく
3)やせたいなら、やせていない自分の姿を卑下するのではなく、すでにやせたものと思って、ハッピーな気持ちで過ごすべき
などなどのアドバイスが書いてあります。
不満やマイナス思考が心の真ん中にあると、そういったものが、もっと自分の周りに集まってきてしまう…、だからこそ、プラス思考で、自分にとってプラスなものを、どんどん引き寄せましょう〜、と締めくくられています。
私が一番面白いと思ったのは、"欲しいと思っているもの"の例で、
「欲しいものがあったら、すでに持っているような気持ちでいましょう〜。欲しいものが向こうから寄ってきます。すでに持っているような気持ちになる=世の中という広いカタログにplace an order(注文をいれる)ということなんですから!遠慮することはありませんよ、みんなに充分ありますから」
という、ウルトラ前向き思考。
確かに、そんなことを考えているとワクワクして楽しいので、自分の欲しいものをA4のルーズリーフいっぱいに書き出してみました。まあ、こんな前向き思考が長続きすればいいのですが、本を読み終わった途端に、悲しいかな、いつもの自分に戻ってしまった感あり(苦笑)。
でも、私も大人なので、その時々の自分の気持ちに正直でありながらも(悲しいときは、悲しいと自分で認めながら…など)、ちょっとしたプラス思考を取り入れていきたいと思っています。
アネット先生も、
"When you get older, you will learn to cherish things you have — family, friends, dreams, and the small things you enjoy. They keep you going."
(もっと大きくなったら、自分がすでに持っているものを大切にしなければいけないって分かると思うわ。家族とか、友だちとか、夢とか、小さくても自分の好きなこととか。そういったものが、また、生きていく力をくれるから)
と、おっしゃっていたし…。
つづく
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