「家庭訪問」という言葉には、なんだかうれしいようで、落ち着かないような複雑な響きがあります。きっと、小学生のころに経験した、大好きな担任の先生が家まで来てくれる、というワイワイ&ワクワク感と、日ごろの学校での悪行ざんまいを両親にどこまでばらされるのだろうか…、というドキドキ感を思い出すからかもしれません(苦笑)。
たいていの場合は、先生はあまり悪いことは言わず、家での様子や母親のconcern(心配ごと)なんかを、詳細に聞いていったものですが…。
ところが、そんなかわいい(?)小学生だったころから20年も経った最近でも、家庭訪問を受けることがあるんですよ! そしてなんと、訪問するのは学校の先生でなく、新聞社や出版社の編集者の方々なのであります。
今日紹介するのは、その一例…。
私は、今年の4月から『週刊ST』紙上で『Kana's 英語のことわざ・名言手帖』を連載させていただいています。日本語のことわざもそうですが、私たちは分かっているつもりでいても、案外、もっと深い意味があることを知らなかったり、思い違いをしていることが多いものです。
字面だけ追っていると、neutral(中立的)な意味に読めても、語源や由来を調べると実はnegative connotations(ネガティブな意味や側面)を含む場合もあったり、また逆もあり。
さらに、ことを複雑にするのは時間的な問題です。ことわざによくあるwarning (忠告・助言)も、ここ1日、2日のtime frame(時間的スパン)での話か、それとも、1ヵ月単位の話か、それとも1年または10年といった長期での話なのか…と、明確にすべき点が多々あるというわけです。
このように確認事項が多くなると、メール、ファクス、電話では限界があります。
そこで、先日、わたしの連載を担当してくださっている、2名の敏腕エディターの「家庭訪問」を受けたというわけです。
"Hello!"
(こんにちは〜)
と、元気にやってきた編集者たちを家に迎え入れ、ことわざのリスト、ことわざ辞典、例文のリスト、過去記事などがちらかったテーブルで、一つ一つのことわざに関する細部の確認作業がスタート。ことわざにあてはまる例などをreview(復習)していきます。
また、私は、普段から話をしたり、文章を書いているとすぐ脱線して話題が変わる重度の『脱線病』をわずらっておりますが、そんな病に効く処方せんも出していただきました。ちなみに、家の中のチョコレート工場、10日間の閉鎖とかじゃないですよ(苦笑)。
仕事の話が一通り終わると、日ごろの作家生活に話がおよびました。
編集者のAさんは、後ろのほうから聞こえる音楽に耳をそばだてて、
「加奈さん、いつも執筆中に音楽をかけているんですか?」
と、聞かれました。
「そうなんですよ〜」
と、即答し、自慢のCDコレクションを見せようとして、はっ、とわれに返りました。
「いやいや〜、私のfirst draft(草案)がいつも脱線しているのは、音楽を聴きながら書いているからではありませんのよ〜。ほほほ〜」
と、ひきつった笑顔を浮かべてごまかしたのでありました。
次には、部屋の脇に山のように詰まれている雑誌について話をしているうちに、編集者の一人がはいていたパンツが、キーラ・ナイトリーが愛用しているものそっくりだ、ということを、point out(指摘)してしまいました。おまけに、その写真までひっぱりだして来て見せると、
「どうしてキーラが、そんなパンツを愛用しているなんて知っていたんですか〜」
と、目が点になる、編集者のお二人。
「ハリウッド・ファッション&ゴシップなら、まかしてくださいよ〜♪」
と、言いかけて、
「いやいや、もちろん、ことわざ辞典を勉強する間に、たまたま、そんなファッションがあったな〜なんて、見つけちゃっただけなんですがね……。いやいや、もちろん、偶然ですよ。ええ、たまたまってやつですよ…」
と、冷や汗タラリの石黒さんなのでありました。
いくつになっても、家庭訪問とは、うれしくもあり、スリルいっぱいのイベントだなぁと、痛感した次第です。ほんと、油断もすきもありません!(苦笑)
ちなみに、BGMは、Ryan Adams "Nobody Girl"でした。
つづく
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