大学に入りたてのころ、Japanese Art History(日本美術)というコースを取ったことがありました。上級生用のセミナーでしたが、私は特別に許可をもらって受講することができたのです。
担当教授は、Dr. Miller という女性の教授で、日本文化のことはなんでも知っている、歩く百科辞典/博物館のような方。源氏物語の絵巻物を鑑賞するために、ミラー教授の指導のもと、源氏物語を英語で読まされて苦労したことを、まるで昨日のことのように思い出します(苦笑)。
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元気いっぱいのミラー教授と筆者。
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ミラー教授は、Yale University(エール大学)で西洋哲学のPh.D.を取ったscholar(学者)ですが、日本文化にも強い興味があり、西洋哲学から東洋哲学へ、そして仏教、日本の庭園へ、と専門を広げていくうちに、日本美術の専門家になられたという、興味深いバックグランドの持ち主です。
小さなカールがかかった髪の毛は、ちょっと見るとアーティストのようですが、鋭く深い表情をたたえた瞳は、やっぱり哲学者のよう。かと言って、ちっとも暗くはなくて、明るいエネルギーに溢れた優しい先生でした。
そんなミラー教授が、ニューヨークから20名ほどの学生を連れて、日本へfield trip(社会見学)兼museum tour(美術館めぐり)にいらっしゃることになりました。19歳のとき以来、お便りやメールでのお付き合いだけになってしまっていたので、実際にお会いするのは13年ぶりです。
さっそく先生たちが滞在しているホテルへお邪魔すると、先生が13年前よりもさらに若くなっていることに衝撃を受けたちょびつき筆者。
"How could it be!?"
(どうすれば、そんなことが可能なのじゃ!?)
後日、先生や学生の皆さんと一緒に上野の東京国立美術館に見学に行ったのですが、その溢れ出るような好奇心も昔のままでした。
例えば、こんな感じです。縄文時代の部屋に入るなり、はにわの写真を撮りまくっています。また、国宝と記された絵をガラスケースに吸い込まれるように見入ったり、仏像の前でそのヘアー・スタイル(?)や手の位置について延々と語ったりしています。この調子では、1日かかっても美術館を出られそうにありません(苦笑)。
私みたいに日本で暮らしていると
"I can go see it anytime!"
(いつでも見に行けるから、まあいいやぁ)
となってしまいますが、人生最初で最後になるかもしれない日本旅行に、学生の皆さんも興味津々の様子。
通訳の方をのぞいてたった一人の日本人だった私は、案の定、学生さんから質問攻めにあってしまいました。
"What was the relationship between Samurai and Ninjya?"
(侍と忍者って、どういう関係だったんですか?)
とか
"You know, we are going back to NY tomorrow. Where do you think I should go after this museum?"
(あの〜、明日、ニューヨークへ帰るんですけど、美術館のあと、どんなところを見たらいいと思いますか?)
とか
"How much would a decent set of tea cups cost?"
(ある程度いい湯飲みセットを買いたかったら、いくらぐらいするのかしら?)
などなど。
さらに、周りを見渡してみると、(わたしたちのグループ以外にも)外国からの来館者が圧倒的に多いのには驚きでした。
筆者は、先生の長い説明を聞く間、隣の生徒に話しかけようとして、あやうく、ぜんぜん知らないグループの人にも話しかけそうになってしまいました(苦笑)。
ところで、海外からお友だちが来るたびに強く感じることがあります。彼らの新鮮な視点というのは、日本を再発見するのに、とても良い手がかりになるということ。彼らと一緒だと、一人で美術館へ行くよりずっと多くのことに気づかされます。素晴らしい文化遺産に囲まれても、好奇心を失ってしまっては、その素晴らしさの半分も堪能することができない、ということにも気付かされるのでした。
"If you can get up early tomorrow morning, you should go to Tsukiji and check out the fresh fish!"
(そうだ、明日の朝、もし早起きできたら、築地で新鮮なお魚を見てきてごらん!)
と提案して学生たちと別れたものの、(ニューヨークにお魚を持って帰ることはできないし、大丈夫だったかな〜)と、相変わらずいい加減なアドバイスばかりしている自分を反省した次第です。
こうして学生さんたちは、無事ニューヨークへ帰っていきましたが、ミラー教授は、日本に残ってリサーチを続けることになりました。そして、なんと今までいちども足を踏み入れたことがないという、私の地元、山梨県の八ヶ岳山麓へいらっしゃることになったのです!
その2へ つづく
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