私がまだアメリカの大学生だったころ、political science (政治学)の基礎講義で、何ページにもおよぶ Lincoln-Douglas Debates (1858年に行なわれたリンカーン、ダグラス両氏の討論の内容) を読まされたことがありました。
「そんな古い資料の、しかもオリジナルを読ませるなんて〜。先生の鬼〜」と嘆いたものですが、この討論では、ビジネス・政策に関する討論のようにたくさんのデータや数値が出てくるというよりも、奴隷制度のように、これからの国の方向性を考えた上での価値観・道徳心について多く討論されていて、後に大統領となったリンカーンの言葉を直接読むことができるという点では、とても新鮮でもありました。
またそんなことをきっかけに、大統領選前に行なわれるさまざまスピーチを、テレビでもチェックするようになったものです。政策に賛成できなくても、スピーチの仕方を見ているだけで勉強になることが多いし、アメリカのいろいろな candidate (候補者)、政治家やビジネスマン、大学教授の演説には、(内容は別としても)聞くたびに感心させられることの方が圧倒的に多いのです。
年末・年始にかけては、米大統領選の民主党指名候補を決める選挙で、バラク・オバマ氏やヒラリー・クリントン氏のスピーチを聞きました。個人的にはオバマ氏が、アイオワ州で勝ったときのスピーチが素晴らしかったと思いました。
アメリカの高校や大学でプレゼンテーションなどの練習をさせられるときは、スピーチの構成に加えて、声や声の出し方についても、
volume(音量)
tone(音質や音色) または、color(音色)
pitch(音の調子や高さ)
pace(速さ)
などの項目に分けて指導されます。
終わってから自分の発表しているビデオを見たり、学生同士でお互いにどこが悪かったかcritique(批評しあう会)をしたりするのですが、そんな中、私も人前で上手にものを話すことがいかに難しく、練習を必要とするかを痛感しました。
まず、極度に緊張しているので、どうしても早く終わらせたいという気持ちが強くなって、つい早口になってしまいます。また、笑ってもらいたいような場面でも、悲壮感ただよう自信のない様子でスピーチすると、誰も笑ってくれずに悲惨な結果を招きます(苦笑)。おまけに、重要でないポイントを強調してしまい、肝心なところはサラッと終わらせてしまったり…。内容と声、ボディーランゲージを統合させるのは至難の業でした。
次に、プレゼンの内容は、自分では何回も読んでいるので、初めて聞く人が受ける印象というのを忘れてしまいがちです。必ずしも聞き手が、その特別なトピックに興味があるとは限らないし、そのトピックに関する知識量もさまざまです。私の場合は、たいてい短いプレゼンに情報を詰め込みすぎたり、専門的なことを語りすぎて場がしらける、という失敗をしていました。
オバマ氏のスピーチは、映画『独裁者』の最後の場面に出てくる、チャップリンのスピーチのように、抑揚やスピード、ペースが的確で、聴衆の拍手を止めて再度スピーチに入るタイミングなども絶妙です。
人前で話すのが苦手でライターになったちょびつき筆者が言うのもなんですが、もしアメリカの歴史に興味があったり、プレゼンやスピーチが上手になりたいと思っている読者の方がいらっしゃいましたら、the Declaration of Independence (アメリカ独立宣言)や、ベンジャミン・フランクリンの自伝、冒頭で紹介させていただいたthe 1858 Lincoln-Douglas Debatesを英語で読んだり、バラク・オバマ氏のスピーチを聞いたりすることをオススメします!
つづく
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