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2013年8月23日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Forgetting your anniversary (p. 9)

結婚記念日を忘れて

私の前には、灰色のオフィスビルが立っている。外から見ると東京のその辺にある他のビルと何の変哲もないように見える。

しかし、中に入ってみると、サラリーマンでいっぱいの周囲の建物のほとんどよりも色彩豊かで印象的な景色がどこまでも広がっていた。

私は自分のパスポートに印を押してもらう必要があったので、ターバンを巻いたシーク教徒、鮮やかな色の服を着た西アフリカ人など、日本の入国管理局に用事のある人たちが並ぶ列に並んだ。

親切な職員が私の用事に対応してくれる人は同じ階の緑の線の先にいると教えてくれた。緑の線をたどっていったが、結局、たどらなければならない別の線―今度はオレンジだ―があっただけだった。その後の1時間は廊下を歩き回り、エレベーターに乗ったり階段を下ったりして虹の全色の線を歩き、結局最後にはまた緑の線に戻っていた。

一瞬、ルイス・キャロルの本に出てくるような終わることのない悪夢にとらわれてしまったと思ったが、入国管理局でいろんな色の線をたどらなければならなかった私の苦難の旅は、何よりも私の日本語が下手だったせいだ。職員たちは丁寧で、あと1年の滞在許可をもらう前に私が無駄にした時間のことを謝ってさえくれた。

私は入国審査官に取り調べを受けたことがある―しかも自分の国で!

説明させてもらうと、私は同じ女性と3回結婚している。

1回目は目黒区役所で8年くらい前のことだ。2回目の「結婚」はその少し後で、書類を翻訳してもらい、アイルランドで法的に結婚が認められたときのこと。

そして、3回目は2010年5月9日に原宿の神社で行なった。この日のことは覚えている。なぜなら、かなりお金がかかったから!

だから、結婚記念日が3回あると言ってもいい。覚えなければならない数字がたくさんある。

ヒースロー空港で入国審査官が私の妻に、居住を証明する印が6カ月期限が切れていて、なるべく早くアイルランド当局に行ったほうがいいと伝えるまで、その結婚記念日の日付を空ですらすらと言わなければならなくなるとは思いもしなかった。

それで私たちは、自分たちの結婚が本当の愛はなく、ただ入国管理法をすり抜けたいだけの偽装結婚ではないかと疑っている女性審査官を前にすることになってしまった。

彼女は基本的な質問をいくつか聞いて取り調べを始めた。「結婚記念日はいつですか?」 「10月28日?」と思い切って言ってみると、「違います。何年ですか?」と彼女は、ますます疑わしそうに質問した。「2006年?」 彼女は首を振って、私がまた間違えたことを示した。「はっきりわかりません。ヒントをくれませんか?」と私は頼んだ。

この一番簡単な問いにも正解することができなかったが、私たちのたいへん驚いたことに、その審査官は印を取り出して、パスポートにバンと押してくれた。これからはそんなに無頓着でいないようにという厳しい警告があっただけで、その後3年間の居住が認められた。

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