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2013年9月27日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Never speak ill of the dead (p. 9)

死者の悪口は決して言ってはいけない

アイルランドにはこんな言い回しがある:「死者の悪口は決して言ってはいけない」。これは、誰かが亡くなった後は、その人のいいことだけを話す猶予期間があるべきである、という意味だ。

アイルランドで大きく報じられたニュースは、8月30日に詩人シェイマス・ヒーニーが亡くなったというものだった。存命中に彼の詩に関心を持ったことはなく、今もそうだが、週末に親戚にこの話をしたら、あの言い回しの通り、(ピンが落ちる音が聞こえるくらい)静まり返った。我々は死者の悪口は言ってはいけないのだ。

ヒーニーは北アイルランド出身だ。北アイルランドは政治と宗派の武力衝突で1969年から1998年の間に3500人が亡くなっている。一人の若者として、彼は銃ではなくペンを執ることを選び、平和のために著作を活用した。その点で、彼は「国宝」である。「国宝」とは、ほとんどすべての国民に愛されている人のことを表す言い回しだ。南アフリカのネルソン・マンデラを思い浮かべてほしい。あるいは、日本では鈴木イチローだろうか。

ヒーニーはハーバード大学の教授でノーベル文学賞を獲得した4人のアイルランド人のうちの1人だ。

詩、劇、小説は、アイルランドが他に勝る数少ないものの一つだ。我が国はほぼいつもお金がないので、ノーベル経済学賞は一度もとったことがない。ノーベル賞をとった科学者は日本では17人だが、それに引き替えアイルランドでは1人だ。

アイルランド人が4回ノーベル平和賞をとっている唯一の理由は、とても長い間戦争が続いているからだと思う。ノーベル平和賞に戦闘やテロリズム部門があったなら、アイルランドはトップだと思う。

しかし、アイルランドがロシアや中国、南アメリカ大陸全体よりも多くノーベル文学賞を得ているということは、こんな小さな国の誇りの源となっている。公平に言うと、このことはノーベル平和賞選考委員会の欧州中心の性質を反映しているのかもしれない。アジアやアフリカの作家はよく見過ごされている。

他に我が国で文学賞を受賞している作家には、詩人のW.B.イェイツ、劇作家のジョージ・バーナード・ショウとサミュエル・ベケットがいる。

私の日本人の友人は、ノーベル平和賞を受賞していないアイルランドの作家の方が知っているようだ。『ガリバー旅行記』のジョナサン・スウィフト、『ドリアン・グレイの肖像』のオスカー・ワイルドは、ノーベル財団が1902年に賞を授与し始める前にどちらも亡くなっている。そして、私が好きなアイルランドの作家、『ユリシーズ』のジェイムズ・ジョイスは単に見過ごされている。

最も日本人が知っているであろうアイルランド人の作家は、ラフカディオ・ハーンだろう。またの名を小泉八雲という彼は、日本に移ってから知られるようになった。

ダブリンで最近、友人たちと一緒にいたときに彼が幼少期を過ごした長屋を通り過ぎた。ドアに掛けられた飾り板には漢字もあって、私は読めるふりをして、「明治時代と日本の怪談についての著作で有名なラフカディオ・ハーンが1852年から1854年まで住んでいたのはここです」と友人に伝えた。

友人の誰も、うち2人は文学の学士だったが、彼のことを聞いたことがなかった。「それがどうしたんだ。幽霊の話を書いたオタクか」と友人の1人が言ったので、私は「よくもそんなことを。死者の悪口を決して言ってはいけないって、知らないのか?」と返事をした。

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