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2014年12月5日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Listening to the deaths (p. 9)

死に耳を傾ける

最近、葬儀にたくさん出向いていた。ジャーナリストにとっては珍しいことではないと思う。スポーツ選手や政治家など、著名人が亡くなるといつも、人々はそのことについて読みたがる。いや、少なくともアイルランドではそのように見える。アイルランドでは、死は国内で異常なほどの関心の的になる。

報道価値のあるものになるかどうかは死に方にもよる。死亡者の出た自動車事故や職場での事故、殺人などがあると、私の編集者はいつも私か同僚の一人を送り、葬儀についてと、葬儀で言われたことについて報告させる。それは、亡くなった方の家族が気にしなければだ。概して、礼儀正しく控えめでいれば、家族は気にしない。

この仕事は、プライベートな悲しみに立ち入っているような感じがして、私が最も嫌いな仕事の一部だ。しかし、そうは言っても、アイルランドの葬儀はかなり公の出来事なのだ。来る人が多いほど良く、葬儀の詳細が前もって広報されさえする。

ある週末に待機していると、妻が私に地元のラジオ局で一体何を聞いているのかと尋ねた。

「死に耳を傾けているのさ」と私はこの世で最も自然なことかのように言った。

亡くなった方の家族がお金を払って出す通知があり、新聞や地元のラジオ、インターネットに掲示される。誰が亡くなったのか、どこの出身の人だったのか、どこで働いていたのか、残された親類は誰か、葬儀と埋葬はいつどこで行なわれるかが、その通知で告げられる。火葬はここでは一般的ではない。

死の知らせはジャーナリストのためだけのものではもちろんない。ある一定の年齢のアイルランド人なら誰でも、自分の住む村やあるいは隣の村で誰が亡くなったかと、自分が葬儀に顔を出すことが期待されているかを知るために、地元のラジオに周波数を合わせて聞いたり、新聞にさっと目を通したりする。

アイルランドでの死にまつわる慣習は多過ぎてここで詳しく説明することはできないが、通夜の伝統―基本的には亡くなった方を大いに嘆き悲しみながらたくさんのウィスキーで送り出すパーティのこと―はそのものが廃れつつある。それでも通夜の名残は、開いた棺などに残っている。

最近出席した葬儀のすべてのうち、私に最も影響を与えたのは突然亡くなった21歳の方の葬儀だった。私は個人的に彼と知り合いだったからだ。実は、私は10代の頃、彼のベビーシッターをしていた。涙ぐんだ彼の母親が私を招いて、彼の遺体を見せた。「美しく見えない?」と彼の母親は言った。私は棺を覗き込み、美しく見えると同意した。他になんと言えただろうか?

多くの文化ではこのこと(開いた棺のこと)を恐ろしいことと見なすだろうが、これはアイルランドに残る死に対するオープンな独特の姿勢を反映している。

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