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2017年1月13日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Sardines in a tin (p. 9)

缶詰のイワシ

先日、フェイスブックのニュースフィードをスクロールしていると、祖国の友人がシェアした動画が出てきた。それは、東京のラッシュアワーに混雑した通勤電車に人が詰め込まれる様子を映したもので、「東京のラッシュアワーはとても面白い」というキャプションが付いていた。イギリスの学生ニュースサイト「Unilad」が掲載したこの短い動画は1700万回視聴されており、世界中から43,000件以上のコメントを獲得していた。

皮肉なことに、私はこの動画をまさに自分自身が極めてぎゅうぎゅう詰めの通勤電車に乗っているときに見ていた。電車に後ろ向きで乗り、ドアの枠に手を突っ張って中に入り、ドアが閉まるまで息を凝らすという、典型的な東京の通勤者の動きを文字通りしたところだった。そして、私はその映像を自分の携帯電話で見ていた ― 顔から1インチも離れていない距離で。腕がその位置で止まってしまったからだ。

新しい仕事を始めるために東京に引っ越す前、最も心配していたことの1つが通勤だった。すでに、Uniladに投稿されたその動画のような写真や動画は見たことがあって、通勤がどれだけストレスのレベルとBMIを高め、寿命さえ縮めうるかについて読んでいた。

この動画に対する反応では、どれだけ多くの人が車両(山の手線だったと思う)に入るのかにただ驚きを表す人もいれば、こんなことが日常的に起こっていることが信じられないという人もいた。多くがこの状況にがくぜんとしていて、鉄道会社が十分な列車を提供しないことや、通勤者が時間通りに出社することに必死になり過ぎていることを責めていた。

「すでに混んでいる電車に人がさらに詰めて乗り込んでくるとは耐えられない。この動画は地獄のようだ」。

「社会の問題は、誰もがものすごく忙しいと思っていることだ。世界はもっとペースを落とす必要がある…あれは社会について何か表しているのではないだろうか?」

「面白いなんていうものではない。気が滅入るような交通輸送システムのある混み過ぎている国というだけだ」。

私はどう思ったか? 不思議なことに、実は私はそれほど通勤がつらいと思っていない。確かに、すし詰めになるのは不快で、変な姿勢になってしまうと苦痛なときもあるが、集団での「我慢」という驚くべき感覚 ― 集団で文句を言わずに耐える姿勢 ― があると思われる。どれだけしんどくても、誰も文句を言わず、舌打ちもせず、怒ったりもしない。みんな目を閉じてうたた寝をしたり、静かに携帯電話や本を読んだり、音楽を聞いたりしている。

これがロンドンで起こったとしたら、人々は悪態をついたり、攻撃的になったりしているだろう。たぶん、さらに人を電車に乗せてあげることすらしないだろう。

結局のところ、私はどこかへ通勤しなければならないとしたら、毎日東京の「とても面白い」乗車の方がいい。

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