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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 81 : 「小さい英語教室から」を閉じる理由

 このコラムを書き始めたとき、こんなに長く書き続けるとは予想もしていなかった。ただ、書籍には「売れ行き」というものがあって、人気の度合いが分かるのだが、サイトは、どの程度の読者数かとんと見当がつかず、ここまで来てしまったという観がある。そこで、自分勝手に書き続けるのもおこがましいと思い、日本的な謙虚さをもって、そろそろ自分から身を引いた方が良いと思うようになった。

 そのほかにも理由はある。まずは、大学の通信教育で取得した単位が次第に積み重なり(亀より遅いペースだけれど…)、卒論の時期に入ったからだ。その上に、オーストラリアの大学で学んだロシア語を再開したく、この4月に大学の外国語コースに申し込んだが、資格試験などが軒並み並んでいる。早めに仕事と直結できる程度までもっていきたいと考えているので、鬼婆のような形相になっている。

 大学の通信教育を終え、ロシア語の資格を取ったら、ロシアにしばらく移り住むつもりである。家族の者は以前、これをまともに受け止めず「絵葉書を送ってくれ」などと冗談を言っていたが、このごろは私の性格を改めて考え直したらしく、皆、私が行った後からくっ付いてくることを具体的に考えている。しかし、最近は、これら海を越える金魚のふんが「行くなら極東よりもペテルブルグの方が良い」などと勝手なことを言っている。

 家族から見る私の性格など、皆目検討はつかぬけれど、買ってくる鉢からでも判断しているのだろう。花を育てるのが趣味の主人を見習って、いっとき私も鉢をいくつか買ったが、ほとんどが「収穫できる物」。要するにトマト、ナス、シソの葉、キュウリの類である。不幸にして、そのほとんどが、カラスに食われるか、土がやせているので、すぐにダメになったが、見限りも早く、購入は一回だけで「はい!それまでよ!」。ただ、今でも、神社などで、実のなっている木を見つけると、ワクワクする。何か、「活力」のようなものをもらうのは確かである。

 それ以外の理由としては、家族からの検閲が入るようになったこともある。息子から「そんなこと書くな!」と、どなられたことも…。彼らは絶対に私のコラムは読まないのだが、友人や同僚が、ご丁寧に教えてくれるらしい。読者の中にも、私の記事が掲載された翌日に「消えた」、という摩訶不思議な現象に気付いた方がいたかもしれないが、それが、まさにこの「家族検閲」というえげつないものである。作家の車谷長吉氏は『銭金について』(朝日文庫)の中で、私小説を書く難しさを言っているが、「なるほどね」と納得する。しかし、彼の小説と私のコラムではあまりにスケールが違うから、「何もそんなに気にしなくても」と私の方が憤って、相手にどなり返す。悪循環極まりない。

 それは冗談としても、今教えている生徒の数が少ないのも理由の一つである。英語を教えることに限界を感じたのと自分のやりたいこともあったので去年英語学校を辞めたけれど、個人的に教えてほしいという要望と、私の方も途中で放棄するには惜しい子供たちがいたので、何人か自宅で継続して教えた。その後も、何人か出入りはあったが、今は高校1年の麻祐ちゃんと玲衣ちゃん、それに小6のいちごちゃんの3人だけだ(愛しき生徒だし、最後のコラムなので、名前を挙げておく)。この人数だとヘッドラインの「小さな英語教室」でもまだ肩身が狭く、「豆粒の…」とでも変えた方がよさそうな気配になった。

 ただし、英語教育は日本の教育議論の主流でもあるし、多様な生徒を教えていた経験もあるので、これからも本を基調にして、生徒や先生方の意見も聞き、自分なりに書きまとめる努力は続けていこうと思う。

 ついでだから、最近読んで心に留まった英語関連の本を紹介します。まずは、栄陽子著『留学で人生を棒に振る日本人』(扶桑社新書)。これは、表題に「"語学学習"が目的で留学する日本人」とか「英語ができれば国際人だと考える日本人」とあるように、世界で孤立しかねない日本人の留学観に焦点を当てたもので、日本の社会構造や英語教育にも言及していて大変に面白い。

 あとは白州正子著の『白州正子自伝』(新潮文庫)と『夕顔』(新潮文庫)である。この中には、父、樺山愛輔や自らの英語に関する経験がつづられている個所があり、国際的とはなんぞやという問いに自分なりに答えていて、一読の価値があると思う。アメリカに住んでいた秩父宮妃殿下とデパートに買い物に行った際、一緒に行ったおたかさんという女中が、唐草模様の風呂敷を床に広げて2人の買い物を詰め込み、「やっこらさ」という掛け声と共に背中にしょって持ち帰ったという話は笑える。2人は恥ずかしさで逃げ出したが、白州氏は「今、思えば、恥ずかしがることはなかった。大荷物ならば、しょったほうが、合理的だったのだ。驚くアメリカ人を尻目に、平然としていたおたかさんの態度は立派だった」と回想している。

 英語とは関係ないが、大学の卒論とロシア語に直面している今、タイトルを見て買った本に、『時間に追われる人 仕事がラクに片づく人』(松本幸夫著、PHP文庫)がある。その中に、「仕事の邪魔をしているのは『完璧主義』。80点のところで見切ることが大切」と書いてあって、納得!。

 去年、自宅で教え始めた後、難しいお母さんややる気のない生徒は、何らかの形で辞めることを示唆したり、先方から離れていったケースもあった。その前後はめいる日々が続いたが、彼らがいなくなった後、精神的にいかに楽になったかは言いようがない。精神的にめいる環境は除去して、人生80%くらいのところで次に進むという環境整理も大切だと思う。今の3人の生徒のお母さん方は完全に信頼してくれていて、何も言わないので、大変楽だ。

 長い期間、このコラムは、私にとっては大切な、また楽しいものであった。最近は周囲を気にせず、思うままを書いていた観があるが週刊STの玉川編集長がご自分の経験などを書いてくださり、それが次の記事のアイデアとなったことも頻繁にあった。このコラムを終えるのは苦痛ではあるけれど、あと3年で私も60歳だから、優先させるものを優先したいと思った。ただし、頑張りません。マイペース。

 今まで、読者だけでなく記事に登場した方からもメールを頂いて、心から感謝いたしております。ここに「小さな英語教室から」を閉じます。ありがとうございました。

この連載は今回が最終回です。ご愛読ありがとうございました。

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