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日常生活スポーツ英語

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

日常生活に見るスポーツ英語を、A〜Zまで順を追って紹介しています。
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Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 28 : 番外編

 半年にわたって紹介してきた「日常生活に見るスポーツ英語」も今回で最終回です。スポーツ用語が日常生活で使われる言葉の中に浸透しているのは英語ばかりではありません。今回は番外編として、日本語に見るスポーツ用語のお話をしましょう。

 最近、ある本で読んだのですが近代スポーツのほとんどは産業革命以後に発明されたのだそうです。産業革命によって人間の生活様式は大きく様変わりしました。大ざっぱに言うと狩猟・農耕生活から工業を中心とした生活になったのです。ところが、人類はその誕生以来、特に西洋では、狩猟が生活の中心でした。それが、工業生活を営むようになったために、狩猟に投じていたエネルギーをほかのものに振り分ける必要が生じました。そこで人類はスポーツを考案した、とその本は説きます。思えばスポーツには追う、的に当てる、叩くなど狩りをほうふつとさせる動作が多いですね。本当かどうかは分かりませんが、説得力ある説だと思います。

 野球やサッカーといった近代スポーツが入ってきたのは明治以後です。Baseballを「野球」と翻訳したのは正岡子規だという説もあります。日本に古くからあるスポーツとしては柔道や相撲、剣道などがあげられますが、日常生活で使われている言葉にはやはりこれらの用語が多いようです。

 「相討ち」という言葉は剣道で使われる言葉です。競技しているふたりが同時に技を繰り出し、それぞれ相手にダメージを与えるというのが原義ですが、日常生活でもほぼ同じ意味もしくは引き分けと同じ意味で使われます。

 「相手の手の内を探る」などというときの「手の内」も剣道用語です。竹刀の握りから出方を探る技術というのがもともとの意味だそうです。

 日常生活でも使われるスポーツ用語で最も多いのは相撲用語ではないでしょうか。「痛み分け」とは双方が負傷して競技を続けられなくなって引き分けること、「金星」は三役より下の力士が横綱を破ること。そのほか、「勇み足」、「肩すかし」などもありますね。

 「ちゃんこ」という言葉はよくおなじみですが、これは相撲取りが取る食事全般のこと。「ちゃんこ鍋」だけが「ちゃんこ」というのかと思いがちですが、相撲取りが作る食事は全てちゃんこというのだそうです。

 相撲用語には隠語と呼ばれるものもいくつかあり、相撲の世界だけで通用する言葉も多々あります。例えば「かわいがる」。これは相撲界ではけいこで若手をしごくことを言います。これなどはまだよく知られている隠語ですが、ほかにもたくさんあります。興味がある方はそれらに関係する書籍やサイトを探してみると面白いでしょう。

 ところで、僕は大学時代に体育会でアメリカンフットボールをやっていましたが、体育会というのも隠語の多い世界なのです。僕のいた大学では「した」というのがありました。これは「ありがとうございました」の語尾だけをとったもので、お礼を言うときは全てこの言葉で済ませます。練習が終わったとき、キャプテンがまず「お疲れッ」と声をかけます。すると、選手全員で「したッ」と答えるのが当たり前でした。

 「した」の意味のバリエーションとして「(食事などを)おごる」というものがあります。僕の部では先輩と後輩が一緒に飲みに行けば、先輩が払うのがしきたり。そのとき後輩は「ごちそうさまでした」の意味で「したッ」というのです。先輩が後輩に、「今日、メシをしたしてやるよ」と言うと「ご飯を食べさせてやる」という意味、逆に後輩が先輩に「したしてくださいよぉ」などと言うと「何かおごってください」という意味になるのです。

 テレビの世界も業界用語の宝庫ですね。僕はテレビでNFLの解説を始めて7年目になりますが、最初の打ち合わせのときは言われた言葉がちんぷんかんぷんだったことを思い出します。例えばこんな感じです。

 「番組が始まって始めに『アバン』が30秒入ります。そのあと『アナ解』紹介を、これは『アナコメ』でお願いします。そのあとチーム紹介ですが『ノルマル』が2枚入って『尺』は1分30秒です。最後は『アナ締め』で、21時46分『ケツカッチン』でお願いします。あと10分でリハーサルですが、そのときに『英コメ』と『返し』の確認をしてください。番組中になにかあったら『天の声』でお伝えします。」

 何のことだか分かりますか?「アバン」というのは「アバンタイトル」の略で、番組の始めに音楽とともに流れるタイトルバックのことです。そして、「アナ解」とはアナウンサーと解説者の略で、番組の冒頭にその試合を担当する実況アナウンサーと解説者を紹介すること。アナコメはアナウンサーのコメントで、要するに「紹介はアナウンサーがやるから解説者は黙っていてください」という意味。ノルマルというのは、例えば選手の顔写真や主要データなど、説明を補うときに使用する画像ことです。「尺」とは所要時間、「アナ締め」はアナウンサーのコメントで番組を締めくくることを言います。

 そして、「ケツカッチン」はお尻が決まっていること、つまり、終わりの時間が決まっていて、これは絶対に守ってほしいということです。「英コメ」は英語のコメントすなわち英語音声、「返し」とはマイクを通した自分や相手の言葉がヘッドフォンから聞こえてくることを指します。NHKや日本テレビ系CSチャンネルG+のNFLの中継では放送中に現地音声を英語で聞きながら実況をします。ですから、リハーサル中に音声が適正に聞こえているか、自分の声が聞こえているかを確認する作業が不可欠なのです。

 普通、スタジオの隣にはディレクターや音声スタッフらのいる部屋があり、透明なガラスで仕切られています。スタジオ内は完全防音なので、外の音は一切聞こえません。放送中に隣室にいるディレクターがスタジオ内のアナウンサーや解説者に指示を与える際には、ヘッドフォンにのみ聞こえ、放送には絶対に聞こえない音声を使用します。これが「天の声」と呼ばれるものです。上記の業界用語を分かりやすく「翻訳」すると次のようになります。

 「番組が始まって始めにタイトルバックが30秒入ります。そのあとアナウンサーと解説者の紹介を、これはアナウンサーのコメントのみでお願いします。そのあとチーム紹介ですが、補足画像が2枚入って、所要時間は1分30秒です。最後はアナウンサーがコメントで締めてください。終了時間は21時46分で、時間厳守でお願いします。あと10分でリハーサルですが、そのときに英語音声とヘッドフォンの音声の確認をしてください。番組中に何かあったら、ヘッドフォンを通じてお伝えします。」

 最後はなんだか業界用語の解説になってしまいましたが、これで「日常生活に見るスポーツ英語」のコラムは終わりにしたいと思います。半年の間、予想より多くのヒット数があったことは筆者として望外の喜びです。

 このあとは2週間ほど夏休みを頂き、8月からはまたスポーツと英語に関連した新連載を始める予定です。こちらの方もどうぞお楽しみにしていてください。

 それでは半年に渡ってこのコラムをご愛読してくださった皆様へ——「したッ!」。

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