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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 17 : 村上春樹の『Sydney!』から。囚人、驚愕編

 村上春樹のオーストラリアの歴史簡略版には、「1788年から流刑が廃止される1840年まで総計16万3800人の囚人が英国からオーストラリアに向けて強制的に船で運ばれて使役に回され、彼らの大半は二度と故郷の土は踏めませんでした」とあります。実は、わが家の祖先もその16万3800人のうちの一人です。1797年に流刑となり、村上流に言えば「刑期を終えて故国に戻りたいと望みながら、思いを果たせず、新しい大陸に骨をうめていきました」という部類です。その後、初代流刑囚の名前を長男が代々受け継いで、主人は8代目のジョンになります。

 「中には『これくらい見逃してやったっていいじゃないか』という程度の軽罪微罪で流刑になっちゃった人もいた」と歴史簡略版は続きますが、主人の祖先も、道をさまよっていた羊を一頭盗んだだけで島流しとなりました。

 オーストラリアでは少し前まで、先祖が囚人であったという事実は隠そうという傾向にありました。しかし、年月が過ぎ、近ごろは先祖の調査が人気となり、流刑者を祖先に持つことが逆に誇りにもなってきているようです。

 わが家の調査によると、流刑者ジョンはイギリスのレスターという街で代々肉屋を営んでいた家の息子でした。数年前、主人はその街を訪れ、市の文書保管所で初代ジョンの盗難記事が掲載されていた新聞を見つけました。古すぎてコピーができず残念がっていましたが、記事には、兄弟二人で羊を盗み、弟は免罪、兄が流刑、と書かれてあったとか。ジョンは、流刑後ウインザーというシドニー北部にある小さな町に送られ、肉屋のアシスタントとして働き、そのあとキンカンバーという地域の森林地帯で木材の伐採に従事しました。お墓は今でもウインザーにあり、私も訪れたことがありますが、とてもきれいに保存されていました。

 実は、数年前、日本の大学でこの祖先について聞かれたことがあります。New South Wales大学卒業後、人文系の勉強を継続したかったのですが、英語で論文を書くのに疲れ果て、日本の大学の通信教育を取りました。夏期講座で日本に行き、最初に受講したのが、旧関東軍731部隊の著作で有名な松村高夫先生の社会学。生徒200人に講義したあとで毎回コメントを書かせてそれを読み(大変な作業だったと思いますが)、目に留まったコメントを発表するような大変人間性豊かな先生でした。

 私は最初に、シドニーから来たと書いたので、大層驚かれてクラスで紹介されました。その先生がある日の講義の中で、英国留学中に行なった流刑囚に関する調査の話をし、「たくさんの人が小さな罪で流刑になってるんですよね。例えば羊を一頭盗んだとか」。そして大教室を見回して「シドニーから来た方!」と、私にどんなことを知っているか尋ねました。知っているどころではありません。羊を一頭盗んだなんてわが家の先祖そのものですから。あらかじめ私のことを調べて質問したのかと思ったくらいです。先生の方もおっしゃったことずばりの先祖を持つ日本人の生徒が講義室にいるわけですから、驚いたと思います。それにしても、大講義室の後方から、あんな大声で先祖の話をしたのは後にも先にも初めて。自分でも不思議な場面だったなと思います。

 昔住んでいたWatson's Bayの家の近くにGap と呼ばれるシドニー湾の入り口があります。夜、散歩し、太平洋に輝く月のあかりを見ていると、どういう訳かイギリスから送られてきた若き初代ジョンのことをしばしば思うのですね。どんな気持ちでシドニー湾に入って来たのだろうと。 長い年月がたち、8代目は弁護士となり、その息子の一人は、彼の母国イギリスの大学に行きました。初代ジョンにとっては想像を絶することなのでしょうが、8代目と結婚した日本人によって、日本の英字新聞のウェブサイトに自分のことが書かれ、それを日本人が今読んでいると知ったら、彼は一体どんな顔をするでしょうか。

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