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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 22 : レストラン「ドイルズ」のオーナー

 「JTBシドニー支店、第一期ガイド募集」の広告を見つけたのは、今から20年ほど前のことでした。子供の世話がやや楽になり、外に出たいと思っていた矢先だったので、時間に融通性があるその仕事は大変魅力的でした。

 5年間、日本を離れた地で一人、子育てに奔走していたので、迷いもありましたが、まあ、履歴書だけは送ってみるかという気持ちで応募したら、第一期の6人の中に入っていました。シドニー支店では、オーストラリアへの観光客が急増することを予想し、業務を他社に委託するのをやめ、会社独自のガイドを育てようという意図から募集に踏み切ったようです。

 しかし、新人を訓練する人間が内部におらず、マニュアルもなく、実習第一日目の市内観光では、私たちを採用したマネージャーがバスに乗り込んでガイディングを始めたのには驚きました。バーバーブリッジの手前で、オーストラリアワインの説明を始め、白ワインの銘柄を度忘れし、「えーと、何だっけなー」と頭を抱えているうちに、ハーバーブリッジの高さも幅も歴史も全部オミット。

 そんな調子だったので、PCも普及していなかった当時のこと、仲間と本屋に行き、シドニー観光の情報探しをした思い出があります。皆、小さな手帳にそれらを書き込み、アンチョコとして使用。しかし、不幸なガイドもいるもので、ガイド仕事初日のバスが小型のマイクロで、しかもすし詰め。アンチョコを見られず、ツアーを終えたあと気分が悪くなったとか。国としての観光客受け入れ体制も不十分で、ホテルのトラブルなども日常茶飯事でしたが、オーストラリア旅行の旬の時期でおうような客が多く、それが多分に幸いしたように思います。

 それから、200年祭前後の超過密スケジュールで、子供のことを考えて辞めるまでの5年間、いろいろな人々に会い、いろいろな出来事がありました。

 コアラを抱けるフェザーデイル動物園では、写真を撮ろうとして中腰になっていた新婚の旦那さんにカンガルーが近づき、尻尾で体を支えながら、後ろ足で思いっきり蹴とばしてしまったこともあり、ヤギが客のカバンの中に顔を突っ込み、航空券の一部を食べたりしたことも…。

 極め付きの話を残してくれたのは、4人の中年男性客と休暇ごとに世界中を旅行をして歩いているという添乗員でした。シドニー下町のスペイン料理店に入ったら、メニューが全部筆記体で、しかもスペイン語。全員、清水の舞台から飛び降りる覚悟で注文しました。しばらくして、客には食事が届きましたが、添乗員の前には何も来ません。店の人に催促したら「今欲しいのか」という奇妙な返事。怒った顔で「もちろん」と答えましたが、何が出てきたと思います? キッチンからギターを抱えたおじさんが現れ、テーブルの脇で数曲唄い、あっけにとられたままの客と添乗員を尻目に、キッチンに戻っていったとの由。翌日、同情しながら話を聞いてあげたけれど、今でも思い出すたび笑ってしまいます。

 1991年、新しいシドニーの観光地ダーリングハーバーにオーストラリア国立海洋博物館ができたとき、開館式で、息子(当時13歳)は、隣人であった初代館長Peter Doyle氏 から日本語のスピーチを頼まれました。観光の面で日本を重要視していたからです。見物人の中に元同僚のガイドがいて、スピーチを終えた息子に近づき、「ベンちゃん、すごいね。日本語読めるんだ!」と言ったあと、手元の紙を見て、「あーら、ひらがなばっかり!」。親にしてみたら特訓後の苦肉の策でした。

 そのPeter Doyle氏は、去る12月12日、ガンで亡くなりました。享年72歳。Watson's Bayに本拠を持つ有名なレストラン「ドイルズ」のオーナーで、読者の中には行った方がいらっしゃるかもしれません。同じWatson's Bay出身で家も近かった主人とは長年の知己で、主人はシドニーに戻り、葬儀に出席しました。歴代の首相が弔問に訪れるほど、オーストラリアの観光と漁業に貢献し、名声を得た後も漁師を続け、その飾らない人柄で多くの人に愛されたオーストラリア人でした。時の流れを感じます。

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