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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 80 : 磯村尚徳氏の古い著書から:今でも通用する外国語へのアドバイス

 私が20年以上前に読んだ、元NHKニュースキャスターの磯村尚徳氏の本が、オーストラリアで生まれた息子の語学教育の基本となったのは、彼がフランス語だけでなく、見事な日本語の使い手であり、かつインタビューなどを通して、人間的にも大変に魅了されたからだった。この実力に裏付けされた氏の著書は、へたな語学学習法よりもずっと説得力があり、今、改めて氏の著書を読んでみても、内容は全くあせてはいない。

 絶版になっているものも多いので、語学に関するものを抜書きして、紹介しようと思うが、まずはこんな話から…。

 「『現地人に溶け込まない日本人』という汚名を挽回すべく、ニューヨーク駐在商社の奥様方が日本料理を作って近所のアメリカ人を招いたときの取材フィルムを見ました。"茶巾しぼり"を見て気味の悪い顔をしたアメリカ人が『これは何ですか』と聞いたとき、『We made it yesterday』とか『Sweet potato』などの答えが返ってきましたが、その時のアメリカ人のご夫人の顔が実に奇妙で、いまでも記憶に残っています。「二日がかりで作りました」「これはスイートポテトです」などと答えたかったのでしょうが、これではこちらの気持ちは通いません。」

 さて、こんなとき、どうすればよいか。磯村氏はこう答えます。「料理を作る手間ひまも大事ですが、「これ、何ですか」という質問は予想できるわけですから、あらかじめ気の利いた台詞なり返答を、ご亭主に聞くか、辞書を引くなりして、事前に用意しておかなければいけないと思います。また、すぐに答えないで「何だとお思いになりますか」と聞き返せば、相手が試食して話題が盛り上がったりもします」。(『続 ちょっとキザですが』講談社)

 元NHK欧州総局長の荻野弘巳氏は、こういう磯村氏について、「彼がフランス語をきれいに、正確に話すのは、努力によって「学習」しているからである…数多くの国際会議に同席して一驚したのだが、あれほどフランス語の達者な磯村さんが、常に使い古した仏和辞書を携え、少しでも疑問があればこまめに辞書をひくことだった。少しでもいい表現がないかと、常に研究していた」と言っている。(『ちょっとごぶさたしましたが』 講談社)

 日本語に関しては母君が大層厳しかったようだ。「結婚前、照宮さま付きの奉公で宮家に伺っていたためか、言葉遣いは特にうるさく言われました」と語っている。母君のフランス語は、「堂々と操っていて、子供心にすごいなーと思いましたが、今思えば、あれはかなりいい加減で、「心臓語」でした」とのことだが、その料理好き・客好きの母君も、戦争未亡人となり、戦後はかなり苦労されたようだ。「母は金銭にいい加減なところがあって、尻拭いは私に回ってくるわけで、学生の頃は、よくアルバイトをしたものです」という回想は意外でもあった。

 英語に関しては、英語に達者な「大物」政治家から「下手だ」と言われたことがあったらしい。NHKで後輩の荻野氏は、巻末で、「私はこれを聞いて、その政治家は『小物』だと思った。外国語を自由に話せれば、ゼノフォビア(外国人嫌い、恐怖)から解放されるから理解も深まるであろうが、国際人の要件であることにはならない」と批判し、「磯村さんの英語は「英語屋」の英語ではない。しかし、正確(コレクト)に意を伝える、という意味で決して下手ではない。国際会議でも堂々と意見を述べ、議長を務める」と言っている。当時の磯村氏の英語のインタビューを思い出しても、ユーモアに富み、英語のぼくとつさがかえって魅力になっていたように思う。

 その荻野氏はこうも言う。「現在、英語が上手い人が多くなり、留学生や帰国子女もめずらしくなくなった。しかし磯村さんのアドバイスは依然有効だし、それどころか、常に立ち返るべき基本である」と…(『ちょっとごぶさたしましたが』講談社)

 20数年前、磯村氏の「帰国後、フランス語はすっかり忘れた」という幼少時の体験談が、息子の言語教育に関する指標となった。主人がオーストラリア人でオーストラリアに住んでいるかぎり、母国語は「英語」である。それ以外の外国語は日本語も含めて「学ぶチャンスは与えるが、忘れてもよい。継続して学ぶか学ばないかは本人次第」というものだった。昔を振り返ってみれば、正解であったと思う。

 今、日本で英語を教える立場に立ち、古い磯村氏の本を読み返して、改めて痛切に感じる言葉が、25年前に出版された『ちょっとキザですが』にある。それは、「自らの国語である日本語をマスターせずして、なんの外国語ぞ…」である。

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