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カズの取材日記

By Kaz Nagatsuka / 永塚 和志

スポーツ記者、永塚和志が取材を通じて遭遇した様々な出来事・人々について語るエッセイです。
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Vol. 7 : Kazmanian Devil's 取材日記

 おっ。思わず、声が出た。

 ドイツでのワールドカップを目前に控え、欧州の主要なリーグのシーズンは続々と幕を閉じた。そのなかで、スペインリーグの得点ランキングを先日見ていたら、一番上に"Samuel Eto'o, FC Barcelona"とあるではないか。

 サミュエル・エトー。ロナウジーニョ(ブラジル)と並び、いまや名門バルセロナの中心選手だ。フォワードであるエトーは最終戦の対ビルバオでシーズン26点目を入れ、単独での得点王を決めた。

 エトーの名前を初めて聞いたのは、5年前だった。2001年、日本で1年後にワールドカップ開催を控え韓国と共催でコンフェデレーションズカップが行なわれた。コンフェデは各大陸の王者を集めて行なわれる大会だ。このときのコンフェデにはホスト国の日本と韓国、カナダ、メキシコ、ブラジル、フランス、オーストラリア、そしてアフリカ王者のカメルーンが参加した。1次のグループリーグ、韓国はグループA(韓国、フランス、オーストラリア、メキシコ)、日本はグループB(日本、ブラジル、カナダ、カメルーン)に割り当てられたが、僕は鹿島スタジアムでグループBを取材した。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 カメルーンにはパトリック・エムボマという、以前ガンバ大阪でスターだったフォワードがいた。日本対カメルーンの試合、注目はこのエムボマに集中した。集中というよりも独占といってもいいかもしれない。エムボマ以外のカメルーンの選手に、日本のメディアはほとんど興味を示さなかったのだから。僕もそのなかの一人だった。

 余談だが、エムボマがガンバでプレーしていたとき、僕はガンバの本拠地である吹田市で大学生をしていた。当時はちょうどJリーグが始まったころで、毎試合満員の観客が訪れるほどの人気を博したが、ガンバはエムボマのおかげで余計に人気があった。チケットは半ばプレミア化し、僕は1度としてガンバの試合を生で見ることができなかったほどだ。それでも、エムボマの想像力溢れるプレーをテレビで見て、決して頑丈ではない下宿の部屋で、僕は小さなゴムボールを使ってエムボマのプレーを模倣していた。音がうるさいと隣の部屋の人に文句を言われたのは1度や2度ではなかった。

 当時のカメルーンチームの最大、唯一のスターはエムボマだったが、それでも、"Eto'o"という名前も僕の関心を少しは引いてはいた。ただしそれは、彼の名前が"Jacques Songo'o"や"Olivier Tchatchoua"など、どう発音していいかもよくわからないアフリカの名前に比べて簡単に見えたからだ。「はぁ、なるほど、『江藤さん』ね」。たかだかその程度のことだった。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 ただし、エトーはこのときはまだ20歳で、バルセロナと同じスペインのマジョルカに所属してはいたもののほとんど名前を知られていなかった。これは後で知ったが、エトーは98年のフランスW杯に17歳で出場し、大会最年少選手として一応はメディアに取り上げられたらしいが、当時僕はアメリカにいたので、正直、あまりサッカーを見る環境になかったため、知らなかった。

 98年から3年が経ったコンフェデでも、エトーはまだ若手の有望株の一人にしかすぎなかった。日本との試合では、鈴木隆行(現レッドスター・ベオグラード)に2得点され、カメルーンは2−0で敗れた。試合後のミックスゾーン(選手のコメントを取ることができる場所)、僕ら取材陣の前を敗戦したカメルーンの選手がトボトボと通過していく。日本のメディアはほとんど声もかけない。しかし、"スター"エムボマが登場すると、皆が一斉に彼のところへ駆け寄った。おそらく、トボトボと寂しげにミックスゾーンを通っていくなかにはエトーの姿もあったのだろう。

 エトーはしかし、この後一気に頭角を現した。元から持っていた天性のバネとスピードに加え、年々、経験と技術を兼ね備えていった。そして、上述の通り今ではバルセロナのスターだ。今年、史上2人目の3年連続アフリカ最優秀選手にも選出されている。5月17日には、チャンピオンズリーグの決勝でアーセナル(イングランド・プレミアリーグ)を破るのに貢献した。もはやサッカーファンでエトーの名前を知らぬ者はいないと言っていいだろう。

KAZMANIAN DEVIL'S WBC 取材日記
 ほかの取材者と同じように、僕も5年前のコンフェデでエムボマの話を聞くことに集中していた。それは必ずしも間違いだったとは思わないが、ほかの選手にも目を向けるべきではなかったかと自責する。すべての選手がスターになるわけではないが、いまはまだ有名じゃなくてもその選手の資質を見極め、どんな選手かを紹介するのもスポーツジャーナリストの役割だと思うのだ。あのぉ、偉そうに言ってぇ、申しわけないですけどぉ……(通販・トーカ堂の北社長のマネ)。

 もうすぐワールドカップが始まるが、残念ながらエトーの母国カメルーンは出場しない。もし出ていたなら、僕はきっと「チッキショー、あのとき取材しておけば良かったな」と思いながら、エトーとカメルーンの試合を見ていたことだろう。

 今回のワールドカップは、僕は取材をするわけではないが、どの選手が将来スターになるかを考えながら、観戦してみようと思う。あのぉ、ビールを飲みながらになりますけどぉ……(北社長のマネ)。


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