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スポーツ名勝負・名場面

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

スポーツ記者、生沢浩の13年に及ぶスポーツ記者生活の中で、忘れることのできない名勝負・名場面をピックアップして、それを英文記事でどのように伝えたのかを紹介しています。
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Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 4 : 伊達公子vs. シュテフィ・グラフ

皆さん、アテネオリンピックはご覧になりましたか。今回ほど日本人の活躍が目立った夏のオリンピックは久しぶりです。獲得した金メダルが16個。日本としては過去最高だった東京オリンピックに並ぶ快挙。銀・銅メダルよりも金メダルの獲得数が多かったというのは異例です。

 僕の周りでは普段スポーツにそれほど関心のない人でも、今回に限ってはテレビにかじりついていたという人が少なくありません。やはり、日本人が活躍すると注目を浴びるんですね。

 スポーツは個人やチームを単位にして戦われるのが普通です。しかし、オリンピックのように選手やチームが国を代表して対戦すると、独特のスリルと興奮が生まれます。国旗掲揚・国歌斉唱というとすぐに難しい議論を持ち出す人がいるけれど、サッカー日本代表の試合で国歌が流れたり、オリンピックの表彰式で一番高い位置に日の丸が上がるのは観ていて楽しい。こんな簡単明快なナショナリズムがあってもいい。

 今回取り上げる伊達公子選手とシュテフィ・グラフ選手のテニスの試合も、国を背負ったフェドカップで生まれた名勝負です。

第2位 伊達公子vs. シュテフィ・グラフ 3時間25分の死闘
フェドカップ1回戦 日本対ドイツ第2日
1996年4月29日 有明コロシアム

実力の拮抗したトッププレーヤー同士の戦いはそれだけでファンを魅了する。常識を超えた運動能力と常人には真似のできない高等技術。これこそがトップアスリートたる資格だ。そこに目には見えないプラスアルファが加算されたとき、死闘と呼ぶにふさわしい名勝負が生まれる。

 96年のフェドカップ1回戦で顔を合わせた伊達公子とシュテフィ・グラフの3時間25分に及んだ試合はまさに死闘だった。国の名誉と威信をかけて戦うフェドカップ。二人のトップテニスプレーヤーにとって能力を超えたプラスアルファとは、この通常のツアートーナメントにはない重圧だった。

 前日の対戦を終えて日本とドイツは1勝1敗のイーブン。そして、第2日目についに両国のエース同士の対戦が実現した。

 グラフは当時押しも押されもしない世界ランク1位のトッププレーヤーだ。対する伊達は前年に自己最高の世界第4位にランクされるなど、まさに実力のピークを迎えていた。この大会の直前に行われたジャパンオープンでシングルス・ダブルスの両タイトルを制覇して勢いにも乗っていた。

 しかし、伊達はグラフに対して過去6回対戦して一度も勝っていない。越えられない壁と国を背負う重圧のはざまで、伊達の受けるプレッシャーは想像を超えるものがあっただろう。さらに悪いことに伊達は前日の試合で左ひざの靭帯を伸ばしており、歩行にも支障をきたすほどの最悪のコンディションだった。

 この日の天候は雨。屋根を閉ざした有明コロシアムは4月下旬とは思えないほどの寒さ。この状況も故障を抱える伊達には不利に働くと思われた。

 この試合を伝える僕の記事にはこうつづられている。

 Making good use of her well-angled forehand strokes, Graf rallied past Date, whose quickness was affected by a left leg injury, and race to a 5-0 lead in the first set.

 (グラフは切れのいいフォアハンドを使って、脚のけがのために動きが十分でない伊達を圧倒し、第1セットを5-0とリードした。)

 グラフは持ち前の角度のあるフォアハンドで伊達のスタミナを奪いにかかる。左ひざに故障を持つ伊達は本来の動きが見られず、いきなりグラフに5ゲーム先取を許してしまったのだ。

 しかし、この日のグラフはバックハンドにミスが目立った。それに気付いた伊達はグラフのバックサイドにボールを集め、相手のミスを誘う作戦に出た。これが功を奏し、伊達は5ゲームを連取してタイに持ち込み、最終的にはこのセットをタイブレークの末にものにするのだった。

 第2セットに入るとグラフは得意のサーブで試合の主導権を再び手にする。自分のサービスゲームを全てキープし、さらに伊達のサービスゲームを2度ブレイクしてセットカウントを1対1とすることに成功した。勝負は第3セットへ持ち越された。

 The final set turned into a seesaw battle, fitting for a duel between the two No. 1 players. Date's backhanded straight shots were red-hot while Graf earned points on her angled, powerful forehand strokes.

(最終セットは両国のナンバーワン同士の対決にふさわしいシーソーゲームとなった。伊達がバックハンドから繰り出すストレートショットは鋭く、その一方でグラフは切れのあるパワフルなフォアハンドで得点を重ねた。)

 第3セットはともに譲らない一進一退のゲームとなった。4−4から伊達がグラフのサービスゲームをブレイクすると、すかさずグラフはブレイクバックして伊達のマッチポイントをしのぐ。

 息詰まる攻防に9,600人を超える観衆は盛り上がった。日本の男子トッププレーヤーの松岡修造がにわか応援団長となって観客を先導し、場内は大きく盛り上がった。コロシアム内の観客がすべて伊達を応援している。これが国の威信をかけて戦うフェドカップ独特の雰囲気だ。いまや伊達にとって、国を代表する重圧は気力を支える大きな力となっていた。

 第3セットはタイブレークシステムを採用しないから、相手に2ゲーム差をつけないと試合は決着しない。一進一退の攻防が続く。伊達がポイントを奪えば、グラフが奪い返す。グラフがリードすれば、伊達が追いつく。そして、グラフが6−5とリードして迎えた第12ゲーム、ついにグラフはマッチポイントを握る。

 Graf's first and only match point came at 40-30 in the 12th game of the third set, but her slice backhand stroke sailed too long to make it deuce. Date escaped the jam by winning two points in a row on cross-court shots.

 (グラフの最初で最後のマッチポイントは第3セット、12ゲームの40-30で訪れた。しかし、彼女が放ったバックハンドのスライスショットは長すぎ、デュースとなってしまう。伊達はその後の2ポイントを連続してクロスショットで勝ち、危機を脱した。)

 第3セットは10−10までもつれた。ここまでくると技術うんぬんの話ではない。疲労はピークを迎え、集中力さえ途切れがちになる。まさに気力勝負となるのだ。その意味で、コロシアム全体を味方につけた伊達にはアドバンテージがあった。

 The two then battled to a 10-10 tie, but Date's persistent tennis broke Graf in the 21st game and kept her serve in the 22nd to wrap up her upset win.

 (二人はお互いに10ゲームずつ取り、お互いに譲らなかった。しかし、第21ゲームになると伊達の粘りあるテニスがついにグラフのサービスゲームを破り、さらに22ゲームでは自分のサービスをキープして、番狂わせを演じたのだった。)

 最後に2ゲームを連取した伊達は、自身のキャリアで初めてグラフを破ることに成功した。そして、これに勢いづいた日本はドイツを3−2で破り、32年ぶりにフェドカップのワールドグループで準決勝に駒を進めたのだった。まさに辛抱を重ねた末の伊達の劇的な勝利だった。

 伊達とグラフは試合後、それぞれ次のようなコメントを残した。

"This is the best match of my tennis career," Date said. "The support from my teammates, coaches, and audience was a great help. It made this victory all the happier."

 (伊達「私のテニス人生の中で今日の試合は最高のものでした。チームメートやコーチ、観客の皆さんの応援はとても励みになりました。それがあったからこそ、この勝利がなおさらうれしいものになりました」)



"I don't think I shouldn't be embarrassed (with the defeat)," Graf said. "I was disapppointed…..I tried very hard. But you don't always have happy days. "

(グラフ「この一敗はなんら恥じるものではありません。でも、私自身は残念です。一生懸命に戦ったのですが、いつでもいい日ばかりではないということです。」)

 両者は2ヵ月後にウィンブルドン準決勝で再び顔を合わせたが、そのときはグラフが雪辱を果たした。そして、伊達はこの年の秋に突然の引退を発表し、一線から身を引くことになるのである。

 3時間25分という試合は、僕が取材したテニスの試合でも最長のものだ。盛んに声を出して自分に気合を入れる伊達と、終始冷静な表情を崩さないグラフの対照的なプレースタイルが印象的だった。そして、異様なまでに盛り上がったあの日の有明コロシアムの雰囲気は今でも僕の脳裏に焼きついて離れない。

★先日、自宅でケーブルテレビを見ていたら偶然この試合の再放送に出くわし、真夜中にもかかわらず、思わず見入ってしまった。結果を知って観ていたわけだが、試合の密度の濃さに生観戦に似た興奮を覚えてしまった。名勝負とは色あせないものだ。

 文中でも触れたが、この日は激しい雨が降り、4月下旬とは思えないほど気温が低かった。もっとも、有明コロシアムというのは不思議な場所で、春や秋の比較的暖かい場所でもここは肌寒い。テニスをよく取材していた頃は4月の暖かい日でも、有明コロシアムで取材がある日は必ず革ジャンを着ていったものだ。電車の中では季節外れの恥ずかしい思いをするのだが、これがコロシアムでは必需品となるのだから手放せない。

 ところで、この有明コロシアムは普段は開閉式の屋根が空いたままで試合を行なう。雨天の場合には約40分かけて屋根を閉める。

 厳密に言うとテニスではインドアとアウトドアで試合開催の基準が異なる。気象条件がサーブなどに大きく影響するからだ。基本的にはひとつの大会は全ての試合は同じ条件で行われることが望ましい。ところが、有明コロシアムで行われるテニスの大会ではインドアとアウトドアが併用されることが珍しくない。1週間という限られた大会期間でスケジュールはタイトに組まれており、雨天とはいえいくつか試合を消化しないといけないからだ。

 有明コロシアムができたころは開閉式のスポーツ施設はおそらくここだけだったはず。その後福岡ドームや移動式屋根の札幌ドームもできた。余談だが、2002年に完成したNFLヒューストン・テキサンズのリライアントスタジアムも開閉式だ。こちらは屋根が完全に閉まるまで20分しかかからない。テクノロジーの発展をこんなところでも感じてしまう。

 ウ〜ン、今回はあまり取材裏話らしくなかったな(苦笑)。

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