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記者ほど素敵な商売はない

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

ジャパンタイムズ運動部記者、アメリカンフットボールライター、TV解説者のさまざまな顔を持つ生沢浩が15年間の記者生活のなかで見聞きしたこと、思ったことなどを紹介するコラムです。
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Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 11 : 「選手の引退に見る引き際の潔さ」

 競技によって長さは異なりますが、スポーツにおける選手寿命は短いものです。体力、気力の限界を感じたとき、アスリートは引退という大きな決断を下さなければいけません。そこには少なからずドラマが生まれます。

 先日はトリノ五輪で金メダルと獲得したフィギュアスケートの荒川静香選手がプロへの転向を表明しました。フィギュアスケートにおけるプロ転向はすなわち競技生活からの引退を意味します。世界選手権では優勝経験がありながら、オリンピックでのメダルには縁がなかった荒川選手。念願の金メダルを勝ち取っての引退宣言は見事なものでした。

 僕がこの仕事をしていて初めて出会った有名アスリートの引退は横綱千代ノ富士でした。91年5月、僕がこの仕事を初めてようやくひと月を過ぎたころだったと記憶しています。

 当時新鋭だった貴花田(後の横綱貴乃花、現貴乃花親方)に敗れ、その二日後に引退を決意しました。絞り出すように「体力の限界っ!」と言ったあと、言葉に詰まった千代ノ富士の姿が今でも思い出されます。

 この日の千代ノ富士の姿に、僕は心を打たれました。自分自身も学生時代はかなり真剣にスポーツに打ち込んでいましたから、引退に直面するアスリートの気持ちは理解できるつもりです。千代ノ富士といえばかつては肩の脱臼に苦しみ、三役とその下を行ったり来たりする力士でした。それが積極的にウェイトトレーニングを取り入れ、筋力増強を図った結果としてケガを克服し、関脇→大関→横綱へと飛躍的に出世したのでした。ちょうど中学生のころにこの経緯を見ていた僕にとって、千代ノ富士の引退は時の流れとアスリートの選手生活の厳しさを実感するに十分なものでした。

 アスリートにとって引き際をいつにするかは非常に難しい決断です。その引き際を間違えたために輝かしい功績すら無駄になってしまうこともあるからです。

 現在の千葉ロッテ・マリーンズの前身、ロッテ・オリオンズで活躍した村田兆治は時速140キロのストレートが投げられなくなったら引退すると公言し、その言葉を守りました。変化球投手に転向すればあと数年は活躍できただろうというのが当時の専門家の一致した意見でしたが、直球勝負という自分のスタイルを曲げることを嫌った村田選手は惜しまれながらユニフォームを脱ぎました。

 横浜マリノスでJリーグ初期を支えた木村和司選手の引退時に発した言葉が忘れられません。引退会見でメディアから「今はどんなことを考えていますか」とたずねられた木村はこう答えました。「もっとサッカーがうまくなりたい」。なんともカッコいいセリフでした。

 マリノスの前身である日産自動車で活躍していた木村は、Jリーグでの初ゴールがなかなか決められませんでした。そんなあるとき、木村は子供が想像で描いた木村のゴールシーンの絵を見たそうです。その絵の中で木村は両手を大きく広げてゴールの喜びを表現していました。木村自身、Jリーグで初ゴールを決めたときのポーズはいろいろと考えていたそうです。ところが、それが現実となった日、彼が無意識にとったポーズは子供の絵の中の木村と同じく両手を広げたものだったのです。

 今年のNFLスーパーボウルでは古豪ピッツバーグ・スティーラーズが26年ぶりの優勝を遂げました。この試合を最後にRBジェローム・ベティスが引退をします。この引退にもドラマがありました。

 昨年、スティーラーズはスーパーボウル予選で、あと一歩のところで敗退しました。このシーズン限りで引退を決意していたベティスですが、チームメートのある一言で翻意します。「来年は必ずデトロイトに連れて行くから、僕にあと1年の時間をくれ」。これは、新人QBベン・ロスリスバーガーの言葉です。およそ新人らしくない快進撃を続けていたロスリスバーガーですが、スーパーボウル出場を賭けた大事な試合でミスを連発して敗因を作ってしまいます。その責任を感じたロスリスバーガーがチームの精神的支柱でもあったベティスにかけた言葉が上記のものでした。

 この言葉には重大な意味があります。今年のスーパーボウルはデトロイトでの開催でしたが、デトロイトはベティスの故郷。現役時代の輝かしい功績から将来の殿堂入りがほぼ間違いないベティスですが、唯一届かなかったのがスーパーボウルでした。「故郷で錦を飾らせてあげるから、もう一年だけ現役生活を続けてくれ」という懇願がロスリスバーガーの言葉には込められていたのでした。

 スーパーボウル出場をかけたプレーオフが始まったとき、スティーラーズは第6シードからの勝ち上がりを強いられました。NFLでは過去、第6シードからスーパーボウルを制した例はありません。夢の実現は難しいかと思われました。

 ところが、プレーオフ1回戦で快勝したスティーラーズは2回戦で優勝候補筆頭のコルツをも破って勢いに乗ります。そして、ロスリスバーガーの公約どおりベティスは故郷デトロイトでスーパーボウル出場、優勝を果たしたのでした。

 試合後のセレモニーでベティスはお立ち台に上り、初めて引退を公式に宣言しました。そのときのセリフは「バスはここデトロイトで終着点を迎えた」でした。バスとは大きな体格のベティスの愛称だったのです。

次回予告:スポーツを支える裏方の人々

 スポーツ記者が取材対象とするのは選手・監督ばかりではありません。彼らを支えるメディカルスタッフや栄養士など、その範囲は多岐にわたります。スポーツの舞台を裏から支えるそんな人々の話を次回はしましょう。

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