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記者ほど素敵な商売はない

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

ジャパンタイムズ運動部記者、アメリカンフットボールライター、TV解説者のさまざまな顔を持つ生沢浩が15年間の記者生活のなかで見聞きしたこと、思ったことなどを紹介するコラムです。
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Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 36 : いい文とはどんな文章?

 僕たちのように文章を書くことを仕事にしている人は別にしても、最近は皆さんも文章を書く機会が増えたのではないでしょうか。

 学生ならレポート、社会人なら企画書などで文を書くことはありましたが、最近はメールやホームページ、ブログでさらにその機会が増えています。文章の書き方を指南した書籍が数多く出版されているのもこうした時代背景を反映してのことでしょう。

 ほとんどの人が毎日のようにメールを交換するようになったからでしょうか、「私は文章を書くことが苦手」と言う人が減ったようにも思います。それでも、ホームページなどでは意味が分かりにくい難解な文章や、二つ以上の意味に解釈できてしまう文章に出会うことがよくあります。なぜこうなってしまうのでしょうか。

 ひとつには誤字脱字が原因だと思われます。インターネットでよく見る誤字のひとつは「いがい」と言う言葉です。パソコンによる変換ミスですが、「以外」と書くべきところを「意外」としている文章(またはその逆のケース)をよく見かけます。

 「私意外にその意見に賛成する人はいませんでした」と言う文章があったとしましょう。「私以外に」のつもりが、変換ミスでこうなってしまったのです。ところが、何かの弾みで「私」の部分を読み飛ばしてしまうとどうなるでしょう。「意外にその意見に賛成する人はいませんでした」となって、まったく別の意味になってしまいます。

 それから、文章の前半部分と後半部分がうまく呼応していない文章も読んでいて気持ちが悪いものです。これも例を挙げましょう。

 「私以外にその意見に賛成する人はいませんでした。その理由は、ほかの人は私とは違うデータを持っていたのです。」という文章を考えましょう。意味はなんとなく分かります。話し言葉ではこれでもいいでしょう。でも、「その理由は」という前半部分には「持っていたのです」という文末は呼応していません。「その理由は」ときたらやはり「持っていたことです」とか「持っていたからです」としなければ文章の収まりが悪くなってしまいます。

 会話では許されることでも、文章化するとおかしな言葉はたくさんあります。たとえ気軽に打てるメールとはいえども気を付けたいものです。

 僕たちは職業ですから、常にいい文章を書くことを心がけています。では、いい文章とはどんな文章のことでしょうか。

 夏目漱石や森鴎外は言葉を巧みに操ることのできる作家でした。ですから、明治・大正の時代に活躍した彼らの作品が今でも広く読まれるのです。でも、僕たちは文豪でもなければ小説家でもありません。彼らのように100年先まで評価される文章を書く必要はありません。

 難しい言葉を使っている文章は格式が高く感じられます。評論家であり、哲学者でもあった小林秀雄の文章などはその例でしょうか。難解な言葉を使った文章が格式高く感じられるのは漢文の影響だと思われます。かつて文章を書くことを仕事としている人たちは例外なく漢文を勉強したと言われます。漢文は簡潔な表現で無限の意味合いを文章に持たせることができるからです。また、漢文に通じた人は教養人として尊敬された時代もありました。確かに漱石や鴎外など著名な文章家は難しい言葉をたくさん知っており、またそれを自在に使いこなす知識人でもありました。

 さて、僕は先日、司馬遼太郎の書いた「二十一世紀に生きる君たちへ」という本を読みました。あるテレビ番組で紹介していて、興味をそそられたので取り寄せて読んでみました。

 これは1989年に司馬遼太郎が小学校の教科書用に書き下ろしたものです。対象は小学5、6年生です。21世紀を担う子供たちに向けたメッセージで、人にやさしくし、思いやる心がいかに大切かを説き、その心を養うために日ごろから周りに人にやさしく接するようにしようと語りかけます。

 短い文章ですが、司馬遼太郎はこれの推敲に10ヵ月もの月日をかけたそうです。そして、彼自身この文章を書くためには長編小説をひとつ書き上げるほどの労力を費やしたと語っています。

 司馬遼太郎は晩年に小説を書くことをしませんでした。小説を書き上げるには多大なエネルギーを必要とし、そのエネルギーは自分にはもう残っていないと彼自身が書いているのを読んだことがあります。それを思うとき、彼がこの文章を書くためにどれだけ真剣だったかをうかがい知ることができます。

 小学生が対象の文章なので難しい言葉は一切使われておらず、漢字には全てルビが振られています。それでも心に響くものがありました。21世紀をどう生きるか、21世紀を担う子供たちをどう育てるかという難しいテーマを司馬遼太郎は極めて平易な文章で書いています。難しい内容を易しく書くというのは簡単なようでとても難しいのです。僕がこの本にひかれたのは易しく分かりやすい文章で書かれているということでした。

 文章を書く目的は誰かに内容を伝えることです。難解な言葉を使う必要はまったくありません。易しい文章でも内容が確実に伝えられる、そんな文章がいい文章なのだと思います。

次回予告:本を読むということ

 僕が後輩に常々言っていることの一つに「本を読め」というのがあります。僕自身も時間のある限り本を読むように心がけています。それはある人の言葉がきっかけでした。本を読むことはなぜ大切なのでしょう?

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