●英字新聞社ジャパンタイムズによる英語学習サイト。英語のニュース、よみもの、リスニングなどのコンテンツを無料で提供。無料見本紙はこちら
英語学習サイト ジャパンタイムズ 週刊STオンライン
『The Japan Times ST』オンライン版 | UPDATED: Wednesday, May 15, 2013 | 毎週水曜日更新!   
  • 英語のニュース
  • 英語とエンタメ
  • リスニング・発音
  • ことわざ・フレーズ
  • 英語とお仕事
  • キッズ英語
  • クイズ・パズル
  • 留学・海外生活
  • 英語のものがたり
  • 会話・文法
  • 週刊ST購読申し込み
     時事用語検索辞典BuzzWordsの詳しい使い方はこちら!
カスタム検索
 

記者ほど素敵な商売はない

By Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

ジャパンタイムズ運動部記者、アメリカンフットボールライター、TV解説者のさまざまな顔を持つ生沢浩が15年間の記者生活のなかで見聞きしたこと、思ったことなどを紹介するコラムです。
筆者へお便りを送る

Hiroshi Ikezawa / 生沢 浩

Vol. 59 : ステレオタイプの功罪

 昨今のお笑いブームは根強いものがあって、人気お笑いタレントはバラエティー番組やCM、はたまたドラマにまで引っ張りだこの今日このごろです。最近のお笑いはコントが多くなったような気がします。

 コントはある役柄にふんしたお笑いタレントが面白おかしいやり取りを展開するものですね。タレントが演じるものは医者から刑事、科学者などいろんな分野にわたりますが、一目でそれだと分からなければいけません。いちいち「私は医者です」などと説明していては興ざめしてしまいますから。医者の場合は白衣に聴診器でも首からぶら下げていればすぐに分かります。それが医者という職業に共通のユニフォームだからです。ところが、私服刑事や新聞記者のようにユニフォームがない職業を演じる場合には事情が変わってきます。

 この場合には刑事や新聞記者といった職業から一般的に連想される扮装になるのがコントのお決まりのようです。刑事ならばトレンチコートにハンティング帽といったところでしょうか。さらに警察手帳を見せる場面を挿入すれば完ぺき、というわけです。これは昭和30年代にはやった刑事ドラマの影響が強いと思われますが、こういった型にはまったイメージのことをステレオタイプということがあります。

 このステレオタイプは僕たちのように不特定多数の読者を対称にした文章を書いているものにとっては便利なことがあります。一般の人が共通に抱いているイメージがあれば、いちいち説明する必要がないからです。ところが、このステレオタイプは型にはまりすぎた先入観となってしまうことがあるので注意が必要です。

 新聞記者の姿をイメージしてください。皆さんの頭の中では白いワイシャツにネクタイ、腕に腕章をつけた人がメモ帳とペンを持っている姿が浮かびませんか。記者会見で「本当のところはどうなんですかッ!」と鋭く質問を投げかけているシーンを想像する人もいるでしょう。

 実際は少し違います。現在の新聞記者は腕章の代わりに身分証明書を首から下げ、メモ帳とペンの代わりに(もちろんこれらは今でも必需品ですが)ICレコーダーを手にしていることが多いのです。記者会見でも紛糾する場面は珍しく、普段は淡々と説明と質疑応答が行なわれるだけです。ステレオタイプはイメージとしては便利でも、必ずしも正しい姿を表現しているわけではないのです。前述の刑事にしても、警察手帳を提示することはそれほど頻繁ではなく、通常は名刺を差し出すのだそうです。

 ステレオタイプは時に事実を正確に伝えることの妨げになることがあります。次の事象を考えてみましょう。 A子さんは20代の女性で、離婚したあと一人で3歳の娘を育てています。あるとき、娘を家に置いたまま友達と一泊のスキー旅行をしてきました。帰ってみると家が全焼しており、娘の遺体が焼け跡から見つかりました。

 これは今年の始めに実際に起きた事故をモデルにしたものです。実際の事故は大きく報道されましたから、覚えている読者の方もいるでしょう。上記の文を読む限りではA子さんは身勝手な母親に思えます。昨今では身勝手な親の犠牲になる幼い子供のニュースが多いため、A子さんもその部類に入ると考えてしまうのが普通ではないでしょうか。当然、読者の怒りは3歳の娘をほったらかしにして遊んでいたA子さんに向けられます。これがステレオタイプの落とし穴です。

 後日、このニュースの詳報が伝わりました。A子さんはとてもまじめに娘の子育てをしていたというのです。近所の評判も良い母娘でした。少しでも子供と一緒にいたいという理由で保育園や幼稚園には通わせず(経済的な理由もあったでしょう)、公園などで遊ばせていたそうです。夜、子供を寝かせつけてから深夜営業の飲食店で働くという毎日で、彼女なりに一生懸命生活していたとその記事は伝えます。ほんの一日だけ息抜きをしたいと思ったときに火災が起こってしまったというわけです。僕が読んだその記事では、「亡くなった娘さんのことを思うと彼女の罪は重いけど、責める気持ちにはなれない」という捜査員の談話が紹介されていました。

 これは新聞だけでなく、週刊誌やテレビなどでも報道されましたから、A子さんへの同情が集まりました。そして、怒りの矛先はA子さんではなく、経済的に苦しい母娘を救えなかった社会の仕組みへと向け換えられたのです。

 僕も子供をもつ親の一人としてこの事件をとても痛ましく思いました。A子さんが娘を置き去りにしてしまったことが原因であることは動かしようのない事実で、彼女は罪を問われることになります。しかし、こういった事件の詳細が報道されることによって、同じ境遇に苦しんでいる親子を救うきっかけになるかもしれません。どこの街にも子育てを支援する団体(通常は役所)が必ずあります。こういった団体がこれまで以上に積極的に支援活動を行えば今後A子さんのようなケースは減るでしょう。周囲の人も気を配るようになれば、さらに救われる人が増えるはずです。

 ステレオタイプで当てはめてしまうと「身勝手な親の過ち」で済まされたはずの事件が、事実を知ると苦しい境遇の親子を救うきっかけにもなりうるのです。普段から多くの情報に接している私たちの生活ですが、固定されたイメージにとらわれず、常に事実を探求する気持ちを忘れずにいたいものです。

次回予告:スポーツ観戦に出かけよう

 薫風かおるさわやかな季節になりました。こんなときはスポーツ観戦に出かけましょう。テレビや新聞では味わえない臨場感がきっとそこにあります。

英語のニュース |  英語とエンタメ |  リスニング・発音 |  ことわざ・フレーズ |  英語とお仕事 |  キッズ英語 |  クイズ・パズル
留学・海外就職 |  英語のものがたり |  会話・文法 |  執筆者リスト |  読者の声 |  広告掲載
お問い合わせ |  会社概要 |  プライバシーポリシー |  リンクポリシー |  著作権 |  サイトマップ