「I'm a fool(私はバカなんです)」と生徒が言った。私は彼女に、自分をバカだと思うなんて何をしたのか尋ねてみた。「私はお昼ごはんをたくさん食べて」と彼女は説明しながら、胃のあたりをつかむ仕草をして、「I'm a fool(私はバカなんです)」と言った。
意味をはっきりさせたくて、「じゃあ、食べ過ぎたからバカなことをしたと感じているの?」と聞いてみると、彼女は首を横に振って、「違います、stupid(バカ)ではなくて、FOOL(バカ)なんです」と言った。
私は、「それじゃ、full(いっぱい)ということね?」ともう一度聞いた。
「そうです、Fool(バカ)です」。
短母音がなんという違いを生むのだろう。学んでいる言語を実際に話す予定が全くないわけでない限り、発音は理解してもらうためのカギになる。何気なく、音を長くしたり短くしたりして発音すると、あらゆるトラブルにつながりかねない。毛がむくむくしたかわいい動物(sheep=羊のこと)に囲まれてファームステイを楽しむ代わりに、海に浮かぶ大きな金属の物体(ship=船のこと)を見に港へ連れて行かれるかもしれない。発音の些細な違いのおかげで、私と兄(弟)は、90年代にある料理番組を見続けた。愉快なフランス人男性が司会の番組で、視聴者によく「クッキーシートを用意して」と呼び掛けていたが、「sheet(シート)」を間違って発音する癖があって、兄(弟)と私はいつもそれを聞くたびにくすくす笑っていたものだ。
私がパリにいたとき、フレーズ帳に載っていた表現がどれも発音できなくて、フランス語が私に復讐を果たした。彼らの言語を破壊しているような気分だったが、24時間後にやっと「merci(ありがとう)」だけは言えるようになり、発音しにくい「r」の音がついに完璧に発音できた。それで、私は次の段階に進もうと、怖気づいてしまうほどしゃれたパン菓子店でチョコレートのマカロンを一つ注文しようとした。「ください、マカロンを、チョコレートの、一つ」とフランス語で、自信を示せていたと願いたい笑顔を見せて、女性に頼んだ。私の笑顔に応えることなく、彼女は驚くべき効率で私の語順を正して、「チョコレートマカロンを一つ欲しいのですね?」と言った。
「はい!」。
語順と文法はすっかり間違っていたかもしれないが、私の言いたいことを彼女はわかってくれた。あれはいい日だった。
フランス語のように、英語の言葉は綴りの通りに発音されることはほとんどないので、私は生徒に見えるままではなくて聞こえたまま真似をするように勧めている。最も発音が自然な生徒はきちんとした英語学習のバックグラウンドを持っていないことが多く、英語の多くを映画を見たり、音楽を聞いたりして学んでいる。ネイティブスピーカーの発音を聞くことで耳を音に慣れさせることができる。すぐにすべての音を正しくできなくても、脳は音に慣れて、口がすぐに追いつくようになる。
どんな英語が話されているかによって、脳を調整し直す必要がある場合もある。ニュージーランド人は母音の発音がいい加減であることで知られていて、beer(ビール)も、bear(熊)も、bare(むき出しの)もすべて、まったく同じように発音され、ニュージーランド人でない英語の先生の中にはいらっとする人もいる。
でも自分がバカだなんて感じないでほしい。ネイティブスピーカーでもいつもルールに従っているわけではない。そうではなくて、英語の音を習慣的に脳に与えれば、英語を知る前に、その言語(英語のこと)が与えるに違いないすべての素晴らしい味わいを堪能できるだろう。