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2013年6月21日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Secret powers (p. 9)

秘めた力

最近では子どもが祖父母と共に生活して育つことは稀になった。私は運の良い子どもの一人で、幼少期の大部分と、10代の頃の一部、それから大人になってからも少しだけ、祖母と一緒に暮らすことができた。

年月を重ねて、おばあちゃんが秘めた力をたくさん持っていたことに気づくようになった。私たちは同じ部屋で過ごし、私がアルファベットを覚える前におばあちゃんは本を読んでくれたものだった。物語を広東語で聞かせてくれて、私は絵と英語の文字を見ていたものだった。お気に入りの物語の一つは、「ちいさなあかいめんどり」。おしゃべりをする動物たち、勤勉で賢いめんどりが登場して、料理づくりと痛快な勧善懲悪が出てくるお話だ。

でも後になって、私が自分で本を読もうとして、おばあちゃんに単語について質問したときに、彼女は読み方も書き方も知らなかったことが分かった。私なら決して覚えられないくらいたくさんの物語と寓話をおばあちゃんはどうやって覚えたのだろう―これは彼女がたくさん持っている秘めた力の一つにすぎない。しかし、おばあちゃんの力は夜に私を眠らせることはできなかったので、彼女の寝酒を私にも一口くれて、カードゲームを教えてくれた。

おばあちゃんは学校に行かせてもらえなかったが、マレーシアで育つうちに自然とマレー語の話し方を覚えた。そして、英語話者の家庭で子どもの面倒を見ているときに、英語も少し覚えた。いつも静かに観察をして、聞き、見ていた。しかし、私はおばあちゃんが英語を使うのを聞いたことがないので、ずっとおばあちゃんは英語が話せないのだと思っていた。

ところが、おばあちゃんがニュージーランドで私たちと暮らすようになったとき、彼女はときどき英語で電話に出なければいけなかった。自信がなさそうに「Hello?」(もしもし)と受話器を持ち上げて、「すみません、彼女は今家にいません」や「すみません、彼は家にいません」などと必要な受け答えをしていた。「she」(彼女)と「he」(彼)の正しい使い方にまだ悪戦苦闘している初級レベルの私の英語の生徒をおばあちゃんはすでに越えていた。

最近、入院しているおばあちゃんを訪ねたとき、私が病室のドアをノックしたら、おばあちゃんが堂々と「どうぞ、入って」と英語で言うのを聞いた。その後、呼び出しボタンが見つけられないときに、看護婦にどんなふうに英語で言うのかも聞かせてくれた。おばあちゃんは「何かを失くしました」と言った。語順は少しズレていたかもしれないが、発音と過去時制の正確な使い方に私は誇らしく微笑んだ。

きちんとした教育を受けていないこの85歳の女性は、英語の才能を見せた。おばあちゃんのこの驚くべき一面を見るのに病院まで行かなければならなかったのは残念なことだ。涙を流さずに玉ねぎを剥いたり、プロみたいにコマを回したりといったおばあちゃんの力のいくつかは、残念ながら誰にも受け継がれていない。しかし、彼女の物語を語る腕前とよく見せる超現実的な想像力は、私に読んだり、書いたり、創造したりする気にさせた。そして、彼女の秘められた言語能力を見て私は、彼女に複数の言語を学べるのなら、誰にでもできるはずだと気がついた。だから、みなさんも力を明らかにするのをあまり遅くしないでください―あなたが誰をやる気にさせるか分からないのだから。

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