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2013年8月2日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Moving back home (p. 9)

シンガポールに戻る

3年前、私は京都に住み始めた。今月、シンガポールに帰国する。

一番恋しくなるのは何か、そして誰か、と考えていると、シンガポールの曲「それは小さなこと」の1節が頭の中に浮かんできた。そのコーラス曲の1節目は「私たちが分かち合っているのは小さなこと 愛と喜び それはそこに漂っている」という歌詞だ。

それは本当に小さなことだ。焼け付くような日のかき氷。冬の熱々のうどん。田んぼの甘い香り、それはかなうことなら瓶詰めにしたいくらいだ。どんな香水よりもいい香りがする。黄色い帽子をかぶって、楽しそうにおしゃべりしたり、からかい合ったりしながら、登下校する小学生の様子。友だちの家のホームパーティーでしたたこ焼きルーレット。「おはよう」「またね」と言うときの生徒たちの笑顔。やろうとしさえすれば触れそうなくらい、シンガポールで見るよりも近くに見える雲。

人々の気前のよい愛情と心遣いもだ。京都に住み始めて数週間後に、ほとんど知らない同僚が、週末に横浜の中華街を旅行したおみやげに私にシューマイの箱を渡してくれた。「中華料理が恋しいかと思って」と彼は言った。

地元の郵便局には、私の大好きな職員たちが冬にはカイロを、夏にはクールタオルを手渡してくれる。お気に入りのバーでは、雨が降っているとただで家まで送ってくれた。体調を崩すと、同僚がいつもそばにいて病院まで付き添ってくれた。飲み物や食べ物を送ってくれる人もいた。

日本は外国人を歓迎する国としては知られていないが、私が日本の人たちにしてもらったことは親切以外の何物でもない。

よく「なぜ日本に来たのですか?」と聞く人がいた。「漫画が好きだから」とか、「剣道を5歳の時からやっていたので」など、簡単な答えがあったらいいのにとよく思っていたが、実を言うと、多くの人を日本に行く気にさせるようなものには夢中にはなっていなかった。

では、なぜ私はここに来たのか? 幼いときから好きで、2002年に初めて訪れてますます好きになった国で働くという夢を実現させるためだった。英語という言語が大好きな気持ちを共有したくてやって来た。安全地帯を出て、人生のあるべき姿に対する自分の期待に挑めるように、ここに来た。

日本に来たのは、学ぶため、生きるため、愛するため、そして、恐らく去るためだ。

日本を去るのが耐えがたいのと同じくらい、家族や古くからの友人たちに囲まれて家で過ごしたいという気持ちもある。新しい友人がシンガポールに来たときに故郷を案内するのを想像するとわくわくする。

日本の若者が日本を出たがらないという調査と報告について読んだことがある。そんなふうに感じる気持ちも理解できるが、少なくとも一度は思い切って外に出てみてほしい。いつでも戻ることはできるけど、外に出ない限りはさよならを言うことの意味を知ることはできない。

そしてもちろん、再会することの意味も。

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