私の父は70代で、フェイスブックやツイッターのアカウントを持っていない。携帯電話も持っていないので、70代にしても少し時代遅れになっている。同年代の多くの男性たちのように、ゴルフとガーデニングを楽しんでいる。
父のゴルフクラブは、私たちの自宅から約20マイル離れたところにあり、そのゴルフクラブでは最近トーナメントを実施した。父は最初にコースを回った人の一人だった。父は尊敬できると思うスコアをカードに記入したが、何も受賞するとは思っていなかった。だから、庭に戻ってジャガイモを掘っていた。
アイルランドはヨーロッパの西端にあるので、大西洋の気象系の影響をもろに受ける。つまり、雨、雨、さらに雨ということだ。
父が庭で仕事を始めると、土砂降りになって、ゴルフコースにいた父の対戦相手たちには悪い知らせだったが、父には悪い知らせではなかった。ゴルフクラブから電話がかかってきて、父になるべくすぐに戻って、賞を受け取って欲しいという電話だった。
すでに説明したが、父は携帯電話を持っていないので、その電話に自宅の固定電話で出たのは母だった。母はレインコートと長靴を身につけて、泥の中を歩いて父にその良い知らせを伝えなければならなかった。
汚れを落として、着替え、車に乗って、クラブハウスに顔を出すまで、父に与えられた時間は30分だった。
途中まで行ったところで、急いでいた父はバックミラーに青いライトがチカチカ光っているのが移っているのに気が付いた。警察、アイルランドでは「garda」(アイルランド警察)と呼んでいるが、gardaに止められた。
"「なぜ止められたか分かりますか?」とその警官は、世界中の警官にあるようなぶっきらぼうな言い方で言った。
「分かりません」とゴルフの優勝者(父のこと)は答えた。
「運転中に携帯電話を使っていましたね」
「でも、私は携帯電話を持っていませんよ」と父は抗議した。
「見ましたよ。顔に向けて携帯電話を持ち上げていました」
「いいえ、持っていません。ひげをそっていました」と父は言い、ギリギリの身づくろいの証拠として電気カミソリを出した。"
「それは10倍悪いです」と警察官は言った。ここで彼には選択の余地があった。
ひげをそりながら運転をすることは、アイルランドの法律書には書かれていないし、そのことで警察が違反切符を切ることができる違法行為ではない。同様に、運転中にクラブサンドイッチを食べる、または運転中に百科事典を読むことは具体的な違法行為とはされていない。そんなことをするほど狂った人はいないだろうと、アイルランドの法は想定している。
警察官はそれでも父を不注意運転で裁判にかけることもできたが、きっと面白い面を見る余裕があったのだろう、注意をして父を大目に見てくれた。
「ひげそり運転で二度と止めさせないでくださいよ」と警察官は言い、クラブハウスに向かう父に手を振った。