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2013年12月27日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

At the movies (p. 9)

映画館で

今冬の休暇は海外に行く予定だろうか?

私の友人の一人にとって、旅行の予定には「映画館で映画を見る」が入っていなければならない。

彼女は、「地元の人と映画を見ることで、その国の文化を垣間見ることができる」と語る。私もそう思う。京都で初めて映画を見たとき、みんながクレジットタイトルの最後まで席を立たずに待っていることに驚いたことを覚えている。シンガポールや香港、台北では(私が映画を見たことがある他の3都市)、クレジットタイトルが流れ始めるとすぐにほとんどの人が帰る準備をしていた。

大学でタイ語を勉強していた友人がバンコクで映画を見た経験を話してくれた。映画が始まる前に、国歌が演奏されて、みんなが立っていたのだという。それはタイの人々が国王に献身を示すサインだ。

「タイの人々がどれだけ国王を尊敬しているか、授業で習ったことがあるけれど、それを実際に見たら、その意味がよくわかった」と彼女は話した。

映画館に行くことはそれ自体が驚かされるものだ。地元の映画を見ると、その経験がさらに強まる。地元の言葉を、おそらく字幕なしで聞くという状況を想像してみよう。どのジョークをおもしろいと思うだろうか? あなたが笑うところと地元の人が笑うところは同じだろうか? ファッションや装飾について何か気付くことがあるだろうか? 暗い映画館の巨大なスクリーンは、観光では見落としていた物事を拡大する。

残念ながら、地元の映画を見ることはいつでも簡単にできるわけではない。映画産業がどこの国でも好況というわけではないからだ。例えば、シンガポールでは民間の映画館で地元の映画が上映されるのは年に5本以下のことが多い。

だから、日本人の友人にシンガポール映画でお薦めのものを教えてほしいと初めて言われたとき、言葉に詰まった。数年前のことだが、そのころ、DVDが出ているシンガポール映画は、ドタバタ喜劇の笑いが特徴的なものでシンガポールを狭い見方でしか描いていないものがほとんどだった。素晴らしい作品もいくつかあったが、それらはたいてい手に入れるのが難しかった。

シンガポール映画の『イロイロ』が最近の東京フィルメックスでオーディエンス賞を獲得したときの私の喜びが想像できるだろう。その物語は、監督の幼少期のことをもとにしたもので、一見シンプルに見える。舞台は1997年の経済危機の頃のシンガポールで、10歳の少年とフィリピンの地方イロイロから来た家政婦との絆を描いている。

『イロイロ』はカンヌと、中国語映画のオスカー賞に相当する台湾の台北金馬奨でも名誉ある賞を獲得した。来年日本でも上映されるようだ。私はシンガポールですでに見たが、もう一度日本でも見てみたい。母国の映画を外国で見ることはたぶん、外国の映画をその映画が作られた国で見るのと同じくらい面白いだろう。

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