国民に関する固定観念によれば、ドイツ人は世界一勤勉な国民、フランス人は世界一恋愛の多い国民、そして、アイルランド人は世界最高の―いや、最悪の―酔っぱらいだという。
最も有名なアイルランド産の輸出品にはギネスビールやジェイムソン・ウィスキーがあるのは確かだが、アルコール中毒の国というアイルランドのイメージは、われわれが振り捨てようとしているイメージだ。
だから先月、ある華やかなニューヨーカーがパブの中に位置するアイルランドの裁判所の前に連れて来られたことは、何の助けにもならなかった!
そのニューヨーカーはジュエリーデザイナーのジェニー・ローレンだ。彼女の叔父もまたファッション業界の人間だ。たぶん、ラルフ・ローレンのことを聞いたことがあるのではないだろうか?
ジェニー・ローレンはバルセロナでニューヨーク行きの飛行機に乗ったが、一緒に乗っていた200人以上の乗客とともに、私の地元の空港シャノン空港で進路変更を余儀なくされた。
羽田空港は年間6000万人以上が利用するが、シャノン空港は年間150万人ほどにしか対応していない。しかし、シャノン空港はヨーロッパ最西の空港で、このことは、シャノン空港が技術上、また医療上、目的地外着陸が必要になった際に、重要な役割を持っていることを意味する。大西洋上で乗客の体調が悪くなったり、エンジンに不具合があった場合にはいつでも、乗客を病院に連れて行ったり、飛行機を修理したりできるように、シャノン空港は緊急着陸の態勢を整えている。
飛行機内での迷惑行為の場合も同様で―そして、ジェニー・ローレンがアイルランドの裁判所に連れて来られたのはこのためだった。
内服薬とアルコールが混ざり、そのデザイナーは客室乗務員を押して、別の乗務員とパイロットを罵った。その便はシャノン空港へ進路変更し、彼女はアイルランド警察に逮捕された。
ラルフ・ローレンのめいが次の日に出廷することになっているといううわさが立ち、突然、BBC局とニューヨーク・タイムズ紙がこの事件を取材したがった。
告訴された人物が何千マイルも離れたところに住んでいるので、彼女の事件は最優先事項とされて、警察は裁判所が一番早く利用できる開廷期に彼女を連れて来たかった。通常、月曜日はある村の開廷で、火曜日は別の町でというように、裁判官は地域を回る。
たまたま次の開廷はキラルーという小さな村でだった。しかし、裁判所が改築中だったので、裁判官は毎週水曜日に司法省が借りている地元のパブで開廷する。裁判が開廷中はアルコール類は出されないということを、言い添えた方がよいかもしれない。
酔いを覚ましたジェニー・ローレンが彼女の罪について答えるのにパブに連れてこられるなんて、彼女にとっては皮肉だったに違いない。
彼女は罰金を課されて、アメリカに帰国した。一方、ニューヨーク・タイムズ紙とBBC局は、アイルランドでは司法行政さえも地元のバーを中心に回っていると報じていた。