日本とは違い、シンガポールは優れたサービスがある国としては知られていない。それでも最近、今まで受けた中で最高のサービスのいくつかを受けられる機会に恵まれた。
友人と地元の点心のお店でブランチをとっていた。しゃれたレストランではなかった。私たちにとって一番の選択というわけでもなかった。そこへ行ったのは、行きたかったレストランが予約でいっぱいだったからだった。
私たちはそのレストランに、隣接したパン屋から入り、応対してくれる人を待っていた。みんな忙しそうに見えた。私たちはやっと通りかかったウェイトレスの目に止まった。
私は「4人がけの席をお願いします」と、彼女の質問を先取りして言った。
「ついてきてください」と彼女は足早に私たちをテーブルに連れて行った。席に着くと、彼女は「実はお客様がお入りになったのは裏口です。次からは正面入口をお使いください」と言った。レストランの反対側の端をジェスチャーで指した。
社交辞令はなかったが、それでも失礼な感じがしなかった。シンガポール人特有の効率の良さで、彼女は私たちを席まで案内し、適格なアドバイスをくれた。
ホール係のスタッフは主に40-50代の女性で構成されていた。そのレストランはすぐにいっぱいになり、スタッフは気を抜く暇もなかったが、頻繁にやってきて私たちのカップに暖かい烏龍茶のお代りを注いでくれた。何人かは広東語を話し、それが温かさと親しみやすさを感じさせた。広東語は年配世代の多くの人の母語で、伝統あるレストランの多くによく見られる中国語の方言だった。
私たちの中の一人の誕生日を祝うために、別の店からケーキを買ってあった。レストランのスタッフは快くケーキを冷蔵庫に入れておいてくれて、追加の皿とナイフやフォークを持ってきてくれさえした。集合写真をお願いすると、喜んで聞き入れてくれた。写真を撮ってくれたウェイトレスはもっとおいしそうに見えるようにケーキの位置を調整までしてくれた。
別のウェイトレスはずっと残っていた残り物に気がついた。彼女はその料理を自ら持ち帰り用のバッグに入れてくれて、持ち帰り用のバッグだけでなく入れたてのお茶を持って戻ってきた。
私たちのお腹はすぐにいっぱいになったが、あまりにも話すことがあり過ぎて、帰るのがためらわれた。親切で母親のようなウェイトレスが、テーブルを長く占拠していることへの私たちの申し訳ない気持ちに気がついた。彼女は近づいて笑顔で言った。「いいんですよ。好きなだけいておしゃべりしてください。もっとお茶を飲みますか?気をつけてね。熱いですよ!」
私たちは、シンガポールで一番人通りの多いショッピング街にある騒がしいショッピングモールのレストランではなくて、友だちの家にいるような気分だった。
これはよいサービスだろうか? ミシュランガイドの審査者は足りないと思うかもしれない。私たちにとっては、それでも、余分なサービスを省いた心からのまっすぐな本物のもてなしだった。美と同じで、よいサービスというのも見る人が見れば分かるものなのだ。