伝説では、アイルランドにヘビがいないのは、わが国の守護聖人であるセントパトリックが5世紀にヘビを全て海へ追い込んだからだと言われている。
旅行客にするにはいい話だが、科学的な記録では、英国とは異なり、アイルランドには氷河期以降ヘビがいなかったことが示されている。アイルランドくらい寒い国では、変温動物を歓迎する生息地ではなく、実は、固有の爬虫類は一種類だけで、沼地や山腹に生息する小さなトカゲしかいない。
そういうわけで、漁業検査官が最近私の地元の川でカメを見つけたときの私の驚きを想像してみてほしい。しかも、ただのカメではなくて、フロリダ原産のキバラガメだったのだ。
温水魚のサメやクラゲをアイルランド沖で見たという最近の目撃例は、地球温暖化のせいだとされている。しかし、地元に現れた侵入者のカメがフロリダ州とアイルランドを混同したとは言えないのではないかと思う。恐らくそのカメは脱走したペットか無責任な飼い主に野生に離されたカメである可能性が高い。
野生の生物は新しい国でも、外来種が大きな問題となりうるほどに繁殖することがたびたびある。例えば、オーストラリアに食べ物を持ち込もうとして、シドニーの入国審査官に取り調べを受けるくらい運の悪かったことのある人なら誰でも、そのような問題に彼らが病的なほど疑い深いと感じるかもしれない。でも、オーストラリアの独特な生態系に外来種がもたらすダメージを考えてみれば理解できることだ。オーストラリアでは、持ち込まれたウサギが作物をダメにして、毒を持つオオヒキガエルがほかの種を絶滅寸前まで追い込んだ。
アイルランドでは問題はそこまで劇的ではなく、アイルランドで最悪の外来種は植物だ。一つはシャクナゲというアジアからやってきた低木の植物で、踏み込めないほど分厚く繁ることがある。先月、登山者二人が救出されなければならなくなった。二人は、救出されるまでシャクナゲの迷路に閉じ込められて5時間を過ごした。
そして、あいにくだが、わが国の政府が最大の脅威と考えている植物は、日本のイタドリだ。この侵入者の根はとても分厚く強靭に成長して、建物を損傷するまでになり、銀行では不動産物件にイタドリが存在していたら、ローンを認めないことが知られている。日本人はこの植物でお茶を作るのを知っているが、住宅ローンを探している人がこのことを銀行の経営者に説明しているところは想像できない。
もっと歓迎されている日本からのゲストは、ニホンジカとして知られているシカの一種だ。ニホンシカは貴族によって1860年代に私有地に持ち込まれたが逃げ出した。国中に広がり、今ではアイルランドで最もよく見られる種類のシカだ。ダブリンの中心地にも見られ、フェニックスパークをうろついている野生の群れは旅行客の目玉となっている。