東京で言語を教えていたとき、「ビジネス英語」のコースを希望する生徒の数に驚いた。
彼らは概して、勤務先の会社に海外へ派遣されているか、海外からビジネスパーソンを受け入れなければならない日本人だった。
彼らがビジネス英語は別箇の方言だと信じることは許せた。結局、私の学校ではそのようなコースを広告していたし、日本には選ぶことのできるビジネス英語の教科書がいくらでもあった。
それでも、金融や技術などに特別な語彙があるかもしれないが、言語の基本的な要素は、役員室にいようがバーにいようが同じだと、私は生徒たちを安心させた。
しかし、後に新聞のビジネス担当記者として、ビジネスパーソンは異なる言語を話すという考えにより共感を持つようになった。英語学の学士として、私は常にCEOたちが基本的な文法をめちゃくちゃにする気軽さにぞっとさせられた。
名詞(action[行動]、transition[移行]、dialogue[対話]のような)は、CEOの発言では動詞になることが多かった。彼らは、“we are taking action”(われわれは行動を起こしている)やもしくは簡単に“we are doing”(私たちはやっている)ではなくて“we are actioning”と言い、“we are changing”(私たちは変わりつつある)ではなく“we are transitioning”、“we spoke about”(私たちは話した)ではなく“we dialogued”と言うものだった。
そして、ビジネスリーダーが現実をより快いものに見せるために使うえん曲表現もある。“downsizing”(縮小)— もっと最近では“right-sizing”(規模の適正化)— とは、人々が解雇されることを意味する。“Outsourcing”(外注)は、コストの安い海外へ仕事が移転されることを意味している。
"going forward"(将来的には)は、楽観的に聞こえる別のフレーズで、本当は「これまでに私たちがしてきたすべてのミスについては忘れる」ということを意味しているマネージャーたちに多く好まれる。
それから、職場で意見の不一致があったときに私のマネージャーの一人に最近使われたようなもののように、単に意味をなさない表現もある。「これはオフラインにしよう(棚上げしよう)」と彼は告げて、不愉快な話し合いは終わらせなければならないということを意味した。
純粋主義者は細部にこだわり過ぎるべきではなく、言語は動的なものであり、言語をとりまく世界とともに進化するものであると理解すべきである。オックスフォード英語辞典には毎年何十もの言葉が追加され、最近追加されたものには"selfie"(自分撮り)、"twerk"(腰を激しく振って踊る)(マイリー・サイラスの挑発的なダンスの動きに由来)などがある。
どれだけバカに見えようとも、これらの言葉には少なくとも以前には存在していなかったなにかに表現を与えている。他方、ビジネス英語の多くは、何も新しいことを伝えておらず、偉ぶって聞こえたり、もっと悪い場合には、厳しい現実をごまかそうとする。
勉強を始めたばかりの人々はみな、英語を学びたいのがビジネスのためだろうと、楽しみのためだろうと、意志の疎通をするよりも混乱をさせるのに役立つ用語のようなものは避けるのが賢明だろう。