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2015年5月1日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Scents and sensibility (p. 9)

香りと感性

5年前に日本へ引っ越してきたとき、ほどなく住まいと呼ぶことになる日本のことをあまり分からず、新しい言語であいさつをするという簡単な行為でさえも恐怖で満たされた。三重県の新しい街に落ち着いて、ずっと友だちができないのではないかと心配になった。

友だちになる可能性のある人と何を話せるだろうか? 基本的な情報を尋ねることはできたが、それ以上のことはできなかった。「ご出身はどちらですか?」を繰り返し言うことしかできないうちに友情を築くのは難しい。

三重に越してきてから少し経ったある日、地元の電器店へ行って、当てもなくうろついた。店のサウンドシステムからある曲が流れてきて、私は魅了された。この曲はこれまで聞いたことのあるものに似ているものはなく、アンドロイドが歌詞を歌っているように聞こえ、音楽自体は私が想像できる中で最も楽しいポップ音楽の創造だった。私は一曲まるごと聞いていて、近くにいた従業員が心配になったかもしれない。「この人はコンピューターの通路でなぜ宙を見つめているのだろう?」と。

ユーチューブの魔法のおかげで、その曲の名前がすぐにわかった。それは広島出身のテクノポップ音楽の3人組パフュームの『Love the World』だった。彼女たちは、私の乗った便が日本に着陸する1週間前に新しいアルバムをリリースしていた。銀行口座に給料が出現してすぐにそのアルバムを買った。

私はそれがとても気に入った―パフュームの音楽は、最先端の電子音と人間の感情を織り交ぜている。財布に余裕ができると、このグループが発売したすべてのアルバムを購入した。

しかし、電器店への運命的なその外出の後、三重でおかしなことが起こった。突然、周りの人々とおしゃべりするものができたのだ。当時教えていた生徒たちは、お気に入りのメンバーは誰かと熱心に聞き、同僚との飲み会の締めのカラオケは、私の下手な歌声によるパフュームの大ヒット曲のおかげで突然楽になった。

知らない人との会話でさえ―金曜日の夜のバーでも、パンを買いに行くスーパーでもかつては最大の不安の種だった―楽になった。さらにいいことに、自分と同年代のおもしろい人々と会えるようになり、友だちを作れるようになった。

パフュームに偶然出会ったことで、日本の音楽への扉が開かれた。すぐ後から日本の音楽についてのブログを書き始め、今も続けている。昨年の暮れにはそのグループ(パフュームのこと)にインタビューまでした―夢が叶い、プロとしての重大な出来事だった。しかし、大型電器店で『Love the World』を聞いて一番よかったのは、周りの人たちみんなとつながりを持つ素晴らしい方法を与えてくれたことだ。

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