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2015年12月18日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

My friend, the enemy (p. 9)

私の友達は敵

面と向かって敵と出会うことはまれだ。しかし、敵と間近で会ってみると、固定観念が打ち破られ、偏見を捨て、言語、文化、イデオロギーの違いを越えて友情を生み出すことがよくある。

私が最初に会った敵は、1970年代にさかのぼり、ソビエト連邦出身のロシア人だった。彼の名はセルゲイ。カナダとソビエト連邦間の科学者交換留学制度で私の大学に派遣されていた。偶然、学生課が私の寮に彼を入居させることに決めた。

セルゲイが到着したとき、キャンパスでは大ニュースになっていた。ロシア人だ!共産主義者だ!私たちの寮に来る!当時は冷戦中で、私たちはいつもロシアは「敵」で、ロシア人は「悪」だとずっと教わってきた。

セルゲイは面白い人だということが分かった! 背が高く、まじめで、きつい訛りの英語を上手に話した。彼の専門分野は原子物理学だった。

彼が到着した夜、私たちはささやかな歓迎パーティーを準備していた。紹介の後、友人たちは質問をし始めた。「ロシアにテレビはあるの?」「電話はある?」「車はある?」。セルゲイはびっくりして、「冗談を言っているの?」と尋ねた。残念ながら、冗談ではなかった! クラスメートの何人かがどれほど無知であるか、どれほど世界のことを少ししか知っていないかに気づくことは、恥ずかしいことだった。

セルゲイと私は、すぐにいい友だちになった。彼はカナダの社会と資本主義について知りたがった。私はソビエト連邦と共産主義について知りたかった。教育や歴史から、経済や政治に至るまで、幅広い話題で幾晩も幾晩も語り合った。

セルゲイがカナダの暮らしに慣れていくのを見るのは興味深かった。彼はホッケーが好きで、決まってNHLの試合を毎回見て、われわれカナダの優勝者と、彼の祖国のソ連のチームとを熱心に比較した。

セルゲイはジャンプ傘に惚れ込んだ。当時、ロシアには手で開く傘しかなかった。カナダで、彼はボタンを押すだけでひとりでに開く傘に驚いた。西洋の技術だ!

セルゲイが私たちの資本主義システムについて一番ショックを受けていたのは、カナダのお土産だ。どのお土産店にもカナダの国旗が売られている。セルゲイはそのラベルを近くで見てみたとき、「中国製」と記されているのを見て驚いた。「自分の国に誇りを持っていないの?」と彼は私たちに尋ねた。「資本主義は、自分の国のエンブレムを海外で生産するほどまでに堕落しているの?」

セルゲイがカナダで過ごした年月はあまりにも早く終わった。言語や文化、イデオロギーの壁にかかわらず、私たちはお互いを信頼し、尊敬し合うことと、2つのかけ離れた社会の強みと弱点を理解することを学んだ。

ずっと後になって、ソビエト連邦が崩壊した後、私たちはモスクワで会った。セルゲイは鳥取まで私を訪ねて来てくれさえした。毎回、私たちはウォッカを片手にカナダでの学生時代を懐かしみ、「敵」を同じ人間として見ることの重要性を思い出すのだった。

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