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2016年2月12日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

A way out (p. 9)

出口

『ラビリンス 魔王の迷宮』は、私の今までで一番のお気に入りの映画の1つだ。大好きなシーンの1つは、優しい芋虫が、主人公のサラと会話を始めるところである。サラは、彼女が曲がり角や出口を見つけられないでいることを説明する。芋虫は「出口はいっぱいある。君が見ていないだけ。目の前に1つあるじゃないか」と返事をする。サラは見てみるが、何も見えない。「ないよ」とサラは言い張る。芋虫はサラに「もちろんあるとも。そこを歩いて抜けてごらん。私の言っていることが分かるだろう。物事は見えているとおりだとは限らないよ。だから、どんなものも当然だと思うことはできない」と教える。サラは、壁のように見えていたものに近づいて、もう少し前へ歩き続けてみると、そこには本当に出口が見つかった―よくできた幻想だったのだ。

このシーンがあまりにも魔法のようで息を飲んだのを覚えている。そして私は、同じような状況―一見解決が不可能に思える問題から抜け出す方法を偶然見つける状況―のことを「ラビリンスの芋虫の瞬間」と呼び始めることに決めた。

近所に新しいランニングルートを探し始めて久しぶりにそのシーンのことを考えた。道に迷った後、私はある土曜日の朝に、こっそりと別のランナーについていくことにした。彼女は私が前にうまくいかなかった、巨大な雨水排水路と、あまりにも砂地で走ることのできないビーチにつながるルートの1つを走って行った。そのランナーがビーチの直前で曲がるだろうかと思い始めた時、彼女は突然雨水排水路の方へ向きを変えた。私はそれまでに何度もそこを通り過ぎていたが、どこにも続いていないと思い込んでいた。しかし、彼女はそこに直進していったのだ。私は彼女の後をつけた。彼女は突然左に曲がって姿を消した。私はスピードを上げて、さらに混乱し、『ラビリンス 魔法の迷宮』の隠された出口とちょうどそっくりに、視界からは隠されたところに、とても細い、とても急な階段が排水路の外にあって、彼女が走り続けて行った主要道につながっているのを目にした。

「ラビリンスの芋虫だ!」と、私は思わずこぶしを宙に突き上げて叫んだ。私が追いかけていたそのランナーは、もうだいぶ遠くにいて、小さな点のように見えた。恐らく、私が彼女のあとをつけていると思って、ペースを上げたのだろう。

一見行き止まりに思える状況から抜け出す出口がないと、私はずっと思い込んでいた。しかし、実際には、唯一の壁は私の頭の中にあったのだ―もう少し進んでみて、出口を見つけさえすればよかったのだ。そしてそのことは私に、私たちみんなが作っているほかの頭の中の壁はなんだろうと考えさせた。その壁は、もう少し近くに行って、もっと近くで見てみれば、乗り越えられるのだ。日本人の友人によると、今年はどうやら私の「厄」年らしい。ここでもうまく「ラビリンスの芋虫理論」を適用して、2016年を乗り切れるよう祈っている。

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