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2017年3月24日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Wild eating in the garden city (p. 9)

ガーデン・シティーで自然を味わう

以前に見たことはあった。しかし、その淡い黄色の果物のにおいをかいだのは初めてだった。腐りかけのチーズに似た鼻を突くにおいが強烈に私の鼻を刺して、思わず鼻にシワを寄せた。

シンガポールのアート集団「ママカン」のデンマーク人アーティストであるクリスティンと一緒に歩いていた。クリスティンと彼女の仲間のアーティスト2人、ラレサとスティーブは、シンガポールにある食べられる植物を記録するために、「ガストロ・ジオグラフィー」と呼ばれるプロジェクトを始めていた。市の中心部の散歩は、「芸術的な食の体験」と名付けられ、参加者は地域に自生するさまざまな植物を道すがら見つけて味わっていくことができた。

私がにおいをかいだ果物はノニフルーツ、またの名をチーズ・フルーツという。ノニの木はシンガポールでよく見られるが、この果実と葉が食べられるのは知らなかった。クリスティンは、この果実を洗い、太陽に当てて発酵させるためにふたをしたビンに入れて放置するようにアドバイスした。たまった果汁をクリームチーズと混ぜると、「シンガポール独自のブルーチーズ」と彼女が呼ぶものを作ることができる。

ノニフルーツは一例にすぎない。クリスティンとラレサ、スティーブは、通り沿いに育つ食べられる植物を100種類以上発見した。私は、食べられる植物の標本が入った小さなビンがコンクリートのブロックに並べられた彼らのアート展示をじっと見て、彼らが全ての食べられる植物をリストにするために作ったポスターを細かく読んだ。

私は驚いた。地域に自生していて、私が探し回ったのを覚えている植物は、小学校の近くに育っていたイクソラだけだった。先輩たちがその花の蜜を吸うように教えてくれた。しかし、食べられる植物が他にもこんなにたくさんあったとは想像もしなかった。シンガポールはガーデンシティーとして知られているが、私はこのガーデンが食べられる不思議でいっぱいだとは気付かなかった。

クリスティンは、この散歩に参加したほかのシンガポールの人々の話を聞かせてくれた。1人の女性は、ハワイから輸入された高価なノニジュースを買いに健康食品店へ行っていたという。彼女はノニの木が地元に育っているとは知らなかったのだ。植物から果実やその他の部分を取ることは違法だが、地面に落ちた果実は拾うことができる。

クリスティンの仲間のアーティストのスティーブはシンガポール人で、食べられる植物を探し回るのは初心者だ。彼は、クリスティンがルカムマサムの木から採れた地域で育つベリーを使って作ったジャムの味見をしたとき、「なじみがない」味がすると思った。皮肉なことに、彼がなじみがあると感じていたのは輸入されたいちごジャムだった。

私は食べ物を探して歩く経験を思い出した。そのほとんどは日本でのことだった。野生のミントやオレガノを集め、たけのこを掘った。シンガポールで食べ物探しをしなかったのは残念なことだとその時に思ったのを覚えている。今、私は自分の無知が、祖国に育つ食べられる植物を見ることから私を遠ざけていたことに気が付いた。自分の国の植物をもっとたくさん発見するのが楽しみだし、たぶん、そのうちのいくつかを自分でも育てると思う。

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