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2017年8月18日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Snail mail power (p. 9)

郵便の力

Eメールができる前、それに長距離電話が手ごろに使えるようになる前は、手書きの手紙が私の暮らしには普通のものだった。返事を待って過ごす時間は長く思えるが ― それでも少しわくわくした。

しかし、アメリカの大学に通っていたころは、日本の郵便サービスはよく労働者によるストライキで動かなくなっていた。アドバイスや経済的な援助を求める私の手紙は日本にいる両親に届かなかった。私にとってそれは大変な時期だった。しかし、この経験は私が自立した大人になる上で最後の仕上げになった。

私のように、娘は日本の実家を離れて、アメリカの大学へ通っている。しかし、彼女にはEメールがある。ときどき、娘は私に1日に7回もメールをする! 娘のストレスが多い学生生活について読んでいると、私の感情はジェットコースターに乗っているみたいに浮き沈みする。Eメールにはたくさんのいい面もあるが、大学生の母としての私の生活は、Eメールがない方が平和だったかもしれない。

私が子どものころ、芸術家だった母は私にオリジナルのグリーディングカードを作るように勧めた。中年になって、絵手紙と呼ばれる日本の民芸と出合った。和紙の葉書に描かれたシンプルな絵と文字の組み合わせは、すぐに私の人生の大事な一部になった。

今では私は1ヵ月に最大100通の絵手紙を世界中に出している。絵手紙のやりとりはメールアート(作品を郵便物として送るという表現手法)と呼ばれる世界的なムーブメントの小さな一部にすぎないと知った。また、郵便で運ばれる郵便物や手紙は今はsnail mail(snailはカタツムリの意)と呼ばれることも知った。

明らかに、snail mailはEメールやスカイプ、SNSなどで満たされないニーズに応えている。最近では、私の姉(または妹)は手書きの手紙を読むと、まるで書いた人が自分に話しかけているかのようにはっきり声が聞こえるような感じがする ― たとえ30年も声を聞いていなくても ― と話していた。

私はよく、病気や障害のために入院している人や、外出できない人に絵手紙を送る。彼らは励ましのメッセージと同じくらい、絵手紙を見ることや感触をを楽しんでいるようだ。ときどき、彼らは絵葉書をベッドから見える壁にテープで貼り付けている。

父はアルツハイマー病にかかっている。もう私が誰なのかも思い出せない。私は父に10年以上、毎週1通新しい絵手紙を送っている。彼はEメールを読まない。それに、会話は終わるとすぐに忘れてしまう。でも、私の絵手紙を忘れたとしても、次に見つけたときには絵手紙を新鮮な喜びとともに楽しんでくれることは分かっている。

年をとって、送り主が誰かを思い出せなくなった後でさえも、snail mail ― とくにメールアート ― を誰かが私に送ってくれないかなと期待している。

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