シンガポールでは食べ物のブームは大抵長続きしないが、塩漬け卵黄は今も至るところにある。
魚の皮を揚げた料理とポテトチップス、アイスクリーム、揚げたカニ、チキンバーガー、クロワッサン…。塩漬け卵黄の料理とスナックは今でも庶民的な飲食店やレストラン、カフェ、そしてファストフード店でさえも出て来る。
この流行は数年前に始まったが、塩漬け卵黄は決して新しいものではない。その食材は、アヒルの卵の塩漬けに由来しており、これは600年以上前にさかのぼる典型的な中国料理の食材だ。
今日では、アヒルの卵の塩漬けは卵を塩水に浸して作られることが多い。その卵黄は煮物や焼き物のほか、塩味のきいたごちそうや甘いデザートの風味付けにも使うことができる。
ミシュランガイド・シンガポールのウェブサイトによると、シンガポールにおける塩漬け卵黄のブームは、liu sha bao(流沙包) ― 溶けた塩漬け卵黄のカスタードが詰まった中華風蒸しパン ― が香港からシンガポールに到来した2011年に始まったという。あつあつのクリーミーな液体が蒸しパンの真ん中からあふれてくるのが大好きな人も多い。そのカスタードは甘じょっぱくてクリーミーだ。点心のメニューで人気が高まり、定番となった。蒸しパンを割ると真ん中の液体があふれ出て来る様子を映したインスタグラムの映像を何度も見たことがある。
数年後、シンガポールで塩漬け卵黄のブームがさらに盛り上がり、収まる兆しは今もない。複数の調味料ブランドが家庭で塩漬け卵黄が入った料理を簡単に調理できる塩漬け卵黄のパウダーを発売した。BBCの『グッドフード』マガジンでさえも、自家製の塩漬け卵黄のレシピを掲載している。そのレシピでは「サラダやパスタ、アボガドを載せたトーストのトッピングに最高」と表現している。また、「パルメザンチーズは忘れて、この珍しい旨みのある卵黄をすりおろそう」とも書かれている。
塩漬け卵黄風味の揚げた魚の皮のスナック ― 230グラム入りで16シンガポールドル(1,330円)からで、30分並んで買った ― を衝動的に食べて、私はこの流行を理解し始めている。たぶん、この甘くて塩気のきいた濃厚な味がほとんど何にでも合うのだろう。食欲をそそる香り、それとも自然と惹かれるオレンジ色のせいだろうか? 塩漬け卵黄に人々を大満足させる要素が合わさっているからかもしれない。
塩漬け卵黄そのものは好きではないが、風味付けやソースに使われていると、コレステロールがどれだけ高いかなんて忘れ、あらゆる抑制を放り出してしまう。
この流行はどのくらい続くだろうか? だれにも分からないが、今のところは、塩漬け卵黄は続きそうだ。シンガポールに来たら、食べてみてください。たぶん、日本の料理にも合う。塩漬け卵黄ソースのしゃぶしゃぶや塩漬け卵黄入りのラーメンはいかがだろうか?