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2017年11月24日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

Breaking bread (p. 11)

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「サンドイッチを作るんですか?」 私は大阪のパン屋にいて、お店の人が、私が頼んだ目の詰まった多種穀物のパン1斤のスライスを終えたところだった。「トーストにするんです」と返事をした。「このパンはとても貴重なので、1切れをなるべく薄くしたくて」。お店の人はにっこり笑って、「おっしゃること、分かります。おいしいでしょう?」と言った。

ひどい天気だったが、ほほ笑まずにはいられなかった。日本のカスタマーサービスはきめ細やかさと丁寧さでよく知られているが、「スモールトーク」(世間話、おしゃべり)は有名ではない。それがどれだけ寂しかったことか。

日本で経験した中で、ほかに印象深かったおしゃべりは、不思議なことに、また別の大阪のパン屋でのことだ。私はラズベリーホットチョコレートを注文して、飲み物を待っていたら、カウンターの後ろにいた若い女性が「今日は気温が33℃です。熱い飲み物の方がお好きな方なんですか?」と言った。私は笑って、夏にはきっとおかしな選択だったことを認めた。そして、私たちはこのお店のホットチョコレートについてと、冷たい飲み物についてどんなふうに感じているかで意気投合した。どちらの出来事でも、こうしたやりとりは短いが、特に大切に対応してもらったという感じが残った。

しかし、それはなぜなのだろうか? おしゃべりはいわれのない非難にあうことも多い。「スモールトーク」という名称自体、重要でないことという感じがする。買い物中のスモールトークは、ぎこちなくて表面的なもののように思えたり、時間の無駄に思えたりするので、多くの人が買い物のときにスモールトークをしたり、スモールトークに対応したりするのを嫌がる。しかし、適した状況―行列の後を詰まらせているわけではなく、みんなが喜んで話をする―では、誰かと本当につながりを持つことができる。

スモールトークをベン図の交差している部分として考えてみよう。客と店員、あるいは知らない人(1)と知らない人(2)の役割のままでいることもできる。しかし、スモールトークは、決められた文章を言うプログラムされたロボットかのような感じを減らし、共通した何かを持つ人間という感じを増すのに役立つ。

私が経験したスモールトークの両方がパン屋で起こったものだという事実から、「誰かとパンを分かち合うこと」という表現を思い出した。この表現は聖書に由来する言葉だが、本質的には、有意義なつながりを生む誰かと食事や経験を共有することを意味する。日本では店員と客との間でのスモールトークは稀で、大企業が管理している場合は特にそうなので、パン屋で有意義なつながりを持てたことはうれしい。それは、私の買い物を単なる商取引以上のものにしてくれた。つまり、買い物にっ付加価値を与えた。

願わくは、私の日本でのポジティブなスモールトークの経験が、パン屋だけにとどまらないでくれたらと思う。私たちの世界は、違いが私たちを分裂させるために使われている場所に変化しているようだ。おそらく今は、より多くの人が食事や経験を共有することで、何がもたらされうるかを見た方が良い頃だろう。そして、ちょうどパン屋のように、その経験は温かい経験になるだろう。

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