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2018年4月6日号掲載の記事(ST編集部訳) print 印刷用に全て表示
Essay

No ordinary ride (p. 9)

特別なドライブ

タクシーに乗るとき、私は多くは望まない。運転手が道を知っていることと、連続殺人犯ではないことを望むだけだ。しかし、タクシーの運転手からは常に学ぶことがあるとも思っている。

ニュージーランドで、深夜にタクシーで帰る途中に運転手と話していたとき、彼女が高校時代の旧友の母親であることに気がついた。彼女の娘の友人たちが家に押しかけたときに彼女がいつも用意してくれたおいしいセルビアのチーズパンの話で盛り上がった。彼女は2人の子どもたちを1人で育てるためにニュージーランドに移住しなければならなくなる前は、素晴らしい科学者だった。私は彼女のたくましさに感銘を受けた。

もう一つ記憶に残っている乗車体験は、大阪で極めておしゃべりな運転手のタクシーに乗ったときのことだ。日本語が少ししかできなかったのであまり話すつもりではなかった。しかし、運転手はそのつもりだった。1つの長い文章だと思われた話の中で、彼は政府や経済、(もしかすると)税のことについて話した。私は彼が言っていたことの10%くらいしか理解できなかったが、無礼に映りたくはなかった。それで彼が笑ったときに笑い、文の最後で「でしょう?」というようなことを言っているのが聞こえたときは積極的にうなずいた。彼は、私がどの分野の日本語をもっと勉強する必要があるかを気づかせてくれた。

それから、50代後半のタクシーの運転手もいた。いつも愛媛のある場所で教えた後で、彼の車に乗った。彼は愛想はないが、実はかなり気さくで、元々は大阪出身だった。私たちは官僚制への不満を言い合い、日本語の敬語や謙遜語がいかに人々を互いに知り合いにくくしているかについて語り合った。その年代の日本人男性と私には何も共通点がないと考えていたのは誤りだったと、彼は気づかせてくれた。

最近、私は神戸の工業地帯からタクシーに乗っている。5分の短い乗車で、運転手のほとんどは黙っている。しかし、1人の運転手はいつもにこにこしている。彼は元気いっぱいで、いつも明るく「ミス・サマンサ!」とあいさつしてくれる。私たちの最初の会話はドーピング問題についてだった。前に彼は「春が来ました!」と生き生きとアナウンスしていた。たった5分でも、誰かの一日を明るくする時間はいつだってあるということを、彼は気づかせてくれた。

たぶん、世界中の都市で運転手のいないタクシーが導入されるまでそれほど長くはかからないだろう。多言語に対応し、内蔵の情報システムを搭載している。さらに便利になるようにも思えるが、失われるものは何だろうか? こうした運転手のいないタクシーは、インスピレーションを与えてくれる人々と私を再びつなぐことができるだろうか? 人生の教訓を与えてくれるだろうか? 乗客に自身のことや世界のことに目を向けさせてくれるだろうか?

それはかなり疑わしく思っている。人間のタクシー運転手は、目的地まで常に道を知っているわけではないかもしれない。しかし、私の経験では、彼らはいつも、あなたが今人生においてどこにいるか、どこへ向かっている可能性があるかを示すことができる。



※2018年7月4日9時一部訂正しました。

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