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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 9 : 何か一つの自信

 「何か一つのことに自信を持つと、ほかの分野にもそれが広がる」という説は、確かに真実だと思います。私の身近に、その例がいくつかあるからです。

 私の主人は大学へ行くまで大の学校嫌いで、ビリに近い成績でした。高校卒業後は小型のヨットに熱中し、朝から晩まで練習に明け暮れる毎日。しかし、練習の甲斐あって、小型ヨット部門で、国内のチャンピオンシップを獲得しました。

 その後、知り合いの感化を受けて大学入学を決意しましたが、いったん決意したあとは、ヨットでの自己鍛錬とチャンピオンとしての自信がものをいったのでしょう、難関であったシドニー大学法学部に合格しました。

 合格の朗報を聞いたとき、彼の両親は開いた口がふさがらなかったとか。主人は当時を思い出し、悪い成績やヨットに関して親は何も言わず、好き勝手にやらせてくれたことも成功の要因の一つだったと言っています。

 私の息子の場合、私自身が、自信のなさからくるコンプレックスのかたまりだったため、息子には、この要素を少しでも減らしてあげようと、Sydney Grammarという私立の名門校に入れました。

 これで一応安泰と思いきや、2年生のとき、ひいきの激しい教師に当たり、嫌われたグループの仲間と共にかなり不当な取り扱い方をされ、それが原因で成績が急激に落ちてしまったのです。ビリから2番目なんていうときもありました。勉強嫌いで成績が落ちたわけではなく、原因は自信喪失からなので、私もなすすべがなく右往左往。

 ところが、当時、学校でいつも褒められていた科目が一つありました。ピアノです。

 Sydney Grammarは音楽教育に非常に熱心で、学校で子供たちにピアノやバイオリンを教えていたのですが、Rosenbergというピアノ教師がいつも、息子にはピアノの才能があるというようなコメントをくださっていたのです。

 「一つの自信はほかの分野にも広がる」という言葉を思い出し、学校でピアノの評判がとれれば自信回復の糸口になるのではないかと考えました。そして、それは正解でした。Rosenberg先生のあとに来たロシア人のShovk先生は、自宅で特別に教えてくださるなどして、個人的にずい分と面倒を見てくださり、小学校の卒業間際の音楽会では、プログラムの最後に小品を弾く機会を作ってくれました。

 音楽会のあと、校長先生から褒められ、観客や先生たちからも声をかけられたことが、彼の自信回復の転機になったように思います。中学部に入り、成績が急に上がり始めました。その後は、教師や友達にも恵まれ、室内楽のメンバーとして活躍し、演奏の機会も多く、果てはラテン語の賞なども取得して、ますます彼の自信へとつながりました。

 そして、卒業試験では驚くほどの好成績を取り、Oxfordへ入るきっかけをつかみました。ビリから2番目だった成績を思うと晴天のへきれきですが、学校が音楽教育に熱心だったことが幸いしました。そして、本人の練習。よくやったと思います。しかし、最初の自信につながるまで実に3年。自信というのは一夜にしてできるものではないことも学んだように思います。

 ピアノに関しては、その後、親に欲目が出てきて、有名なピアノ教師に就けたり、学校の休暇を利用してはパリやブダペストの音楽学校に行ったり、コンテストに出たりなどして、音楽の本流とは違う方向に向かい、かなりのプレッシャーを与え、逆に彼をピアノから遠ざける原因を作ってしまいました。

 高校卒業後、一度はシドニーの音楽院に入りましたが、興味はなく一年でやめ、翌年、Oxfordの試験を一人で受けに行って合格しました。Oxfordではほとんどピアノには触れなかったようです。親や周囲の欲目は子供の能力をだめにする一つの良い例だと思います。今、息子は、一度中断した音楽に関する教育を再度受けてみたいと考えているようです。私は何も言うまいと心に決めています。

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