"The Bus' last stop is here in Detroit."
(スティーラーズ RB ジェローム・ベティス)
スポーツ界の名言を取り上げてきたこのコラムも最終回を迎えました。今回も引き続き、NFLの第40回スーパーボウルからご紹介します。
AFC代表のピッツバーグ・スティーラーズのRBジェローム・ベティスは13年目にしてスーパーボウル出場を果たしました。そして、その開催地が彼のホームタウンであるデトロイトだったことから、今大会では大きなドラマが生まれました。
ベティスは肉体的に限界を迎えていて、本来ならば2004年のシーズン限りで引退する予定でした。それが、故郷で行なわれるスーパーボウルに是が非でも出場したいという願いから引退を1年先延ばしにして2005シーズンに臨んだのです。そして、それが実現しました。
この試合を最後に彼が引退することは明らかでした。しかし、ベティスは試合前には決して自分の進退について明言することはありませんでした。「自分がスーパーボウルを前にして引退を表明することで、チームメートに余計なプレッシャーを与えたくなかった」とベティスは後に述べています。
そして、スティーラーズがNFC代表のシアトル・シーホークスを破り、26年ぶりの優勝を遂げたとき、ベティスは初めて引退を正式に表明したのです。そのときの言葉が今回の名言です。
ベティスは180センチ、116キロの巨体のため「ザ・バス」というニックネームで親しまれてきました。ペンシルバニア州ピッツバーグ市では実際に彼の姿をプリントしたバスが運航していたこともあります。
今回の名言のThe Busがベティス本人を指していることがこれで分かりますね。人ならretirementとするところですが、Busなのでstopという単語を使ったのです。なかなかしゃれていると思いませんか?
実はこの言葉にはモチーフとなった有名な名言があります。アメリカの第33代大統領ハリー・トルーマンの座右の銘"The buck stops here"がそれです。トルーマンはこの言葉をホワイ トハウスの自分の机に張り付けていたといわれます。英語にはpass the buckというスラングがあって「責任を転嫁する」の意味に使われるそうです。トルーマンの言葉は「責任転嫁はここでストップする」、すなわち、「私がすべての責任をとる」との意味になります。
ベティスも有名なこの言葉を知っていたのでしょう。自らをニックネームのBusになぞらえて名言をもじって使うところにセンスのよさがみられます。おそらく、ベティスはこの言葉を前もって用意していたのでしょう。
僕はこの言葉を記者席で聞きました。とても好きな選手だっただけに感動もひとしおでした。彼が13年間のNFL生活で走った距離は歴代5位の成績で、将来殿堂入りをするのは間違いないでしょう。スーパーボウル優勝はその経歴に花を添える形となりました。
自分の故郷で初めてのスーパーボウル出場を果たし、優勝とともに現役生活に幕を引く。こんな出来すぎとも思えるシナリオが現実のものとなりました。スポーツはときに劇的な現実を生み出します。だからスポーツはやめられないのです。
さて、長い間ご愛読いただいたこのコラムも今回で最後です。次回からは新しいコラムを用意して皆さんのお目にかかりたいと思います。そちらもよろしくお願いします。
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