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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 24 : ある生徒の作文から

 土曜日は一週間で一番多忙な日です。朝10時から午後8時までぎっちりと授業が詰まり、しかも、学年最後の英検がある年明けは、受け持つ生徒の人数が多いためプレッシャーも多く、帰宅するとぐったり。そんなある土曜の夜、帰宅後何をする気力もなく、ワインを飲みながら机の前でボーとしていたら、朝、生徒の一人が作文コンクールで優秀賞を取った楯と賞状を持ってきたことを思い出しました。

 本人は内容については、「サイトに載ってるよ」としか言わないし、「人権」がテーマだというので、疲れているときに読む気もしなかったのですが、本人が大層喜んでいたし、寝る前の暇つぶしにでもと、ちょっと読んでみることにしました。ところが、読み始めたら、ワイングラスを口につけたまま、一気に読み終え、茫然自失。なんと私のクラスのこと。内容は次のようなものでした(略は…で記しましたが、文はそのままです)。

 「居場所がなくなった時、人は孤独の中をさまよってしまうのだろう。そう感じたのは、昨年(注:一昨年)の10月ごろのことです。私は、中学校一年生の時から、あるイングリッシュスクールに通い始めました…そこで、ある女の子に出会いました…明るく、いつも笑っている印象でした。私とちがっていた面は、積極的で、生徒会長も努め、勉強面ではいつもトップクラスでした。ところがある日彼女は、昔いじめに合っていたと、私にいいました。学校全体のいじめだったそうです…彼女が本当に私を信じて、私に何かをうったえようとしていたことなど何も気づかずに聞いていました。それから私が、彼女の異変に気づいたのは、一年ほど過ぎた日のことです…彼女に一通のメールを送りました。

 『体育祭はどうだった?』

 …彼女からの返事は思ってもいなかった返事でした。『行けなかったんだ』。にっこり笑った絵文字がついていました。そこで、『かぜでもひいたの?』と私は送りました。でも、返事は、『ううん。いろいろあってね。』今度は、絵文字はついていなかった。私はこの時初めて、気がつきました。彼女が、いじめにあっていることを。次の日はちょうど、イングリッシュスクールでした。ここは、生徒二人対先生という形でおこなわれていて、先生ともとてもしたしくなっていました…電話がなり、先生は、三十分ほど話しこんでいました。私は、かすかに聞こえる先生の声で、彼女がどのような状態におかれているのか、すぐにわかりました。そして、そのとたんに、涙がとまらなくなりました…なぜ一年前、気づいてあげられなかったのか、自分をせめました。あのとき気づいていれば、彼女を今のような状態にすることはなかったのに。そればかり思っていました。彼女は、家に二週間も前からひきこもって、学校も行かずに不登校になっていたそうです(注:中学への不登校はそれから3ヶ月続きました)。彼女のお母さんは、これらすべてのことを小学校のころから、一度も気づかなかったそうです。だから、彼女を私が救ってあげようと心にちかいました。まずは、居場所を作らなくてはと思いました。

 そこで、とても役立ったのは、メールというものです…彼女は、学校へ行っていないので、お昼の時間にもメールが来ていました。私は、学校から帰ってすぐに返事を、送っていました。すると、彼女はみるみるうちに、元気を取り戻し、学校には行けないものの、外出が出来るようになりました。私はその事を聞いた時とてもうれしくてたまりませんでした…後から聞いたのですが、メールをしている時、素直な自分でいられるので、気が楽になっていたそうです…これからも、大事にこの友情を築いていけたらと思いました。

 そして、私は、こういう体験を通して、居場所がなくなると人は、どうなってしまうのか、ということが良くわかりました…私は、いじめる人もいじめられる人も、両方救ってあげられる日が、来ることを望み、私自身も考えていければ良いと思います。」

 私は、「生徒から学ぶことってこういうことなのですね」と返事を出しました。いじめに遭った当人も作文を読んで「大泣きに泣いた」とメールを送ってきたそうです。

 外は、雪の変わりに雨が降って、灰色一色。でも私たち心の中は少しピンクに染まっています。

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