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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 28 : 古典語教育とオックスフォードの面接試問

 最近、出口保夫氏と林望氏共著の『イギリスはかしこい』(PHP研究所刊)という本を読んだら、イギリスの学校におけるラテン語とギリシャ語などの古典語教育に触れていて、ヒューマニズムの基本的理念を学ぶ観点から、日本でも、真の教養というものを見直そうではないかというようなことが書かれてありました。その是非の程は、私自身に見識があるわけではないので控えますが、オーストラリアのシドニーグラマーという私立の男子校で、息子がこれらの「役に立たない」言葉の魅力にとりつかれていたことを思い出し、彼を取り巻く先生たちや友達の顔が浮かんできたのでした。

 息子の学校では中学の1年のみ古典語が必修、そのあとは選択になります。しかし、2年目の選択欄の1つが、「地理か古典語」なので、皆、古典語を取るのだとか。古典語の中でもラテン語に魅了された息子と10人ほどの仲間は、卒業まで6年間、この科目を取りました。出口氏は、古典語を学んだ人々を「人間的魅力にあふれ」と言っていますが、息子の先生たちに関する限り、これは本当です。

 生徒たちに最も大きなインパクトを与えたのは、ケンブリッジで14年間古典語の研究をしていたV先生でした。オーストラリアに帰国し、息子の学校で教職に就いたのは、30代後半ごろだったと思います。現在、学長をしておられますが、どの生徒にも愛された素晴らしい先生でした。音楽に造詣が深く、ピアノも上手で、噂によると、ケンブリッジ在学中、新型ピアノの製作を試みたとか。

 そのほかにも、古典語の先生には大変ユニークな方たちが多く、文法の説明をし始めると興奮し、机上に立って講義をする先生とか、会うたびに違う色のかつらを付けてきて、しかも本物の髪の毛がサイドから丸見えという、ディケンズの小説から飛び出してきたような先生。ピアノが上手で息子と毎週連弾をしていた先生もいました。「ワンツー! ワンツー!」と軍隊調の掛け声でバッハを弾くので、息子が「調子が狂う」とこぼしていたことを思い出します。

 友達にも恵まれました。ジェームズとはラテン語賞を取る競争をしたり、一緒に勉強をしたり。そのうちに、サンスクリット語やヒッタイト語のテキストが家に現れるようになり、何をしてるのか聞いたら、古典語の先生が、興味のある生徒たちを集め、特別の時間を割いて教えてくれているとか。こちらは本を手に取り、「ふーん」。  しかし、英国の伝統が強いオーストラリアといっても、建国200年の新しい国。親が子供たちに、古典語を大学で専攻させるほどの寛容さは持ち合わせていませんでした。ジェームズがケンブリッジ大学でギリシャ語を学びたいと親に伝えたら、祖父が州の最高裁長官で両親が弁護士という家庭環境のみならず、数多い兄弟の中でも彼が一番成績が良かったため、母親が「息子を教師にするのか」と学校に怒鳴り込んだとか。結局、ギリシャ語を学んでもよいけれど、卒業後はシドニー大学の法学部に入り直すことで許可を得ました。今は、約束したコースを終え、法律事務所に勤めているそうです。

 わが家では、選択の自由はありましたが、それでも、多少実践も含む東洋語学科を選びました。しかし、オックスフォード入学の際の面接では、カレッジの学長がラテン語の権威だったため、息子の履歴を見たあと、ラテン語文献に関しての突っ込んだ質問を出し、息子がこれに難なく答えたことで入学の助けとなったのは皮肉でした。ラテン語の教師は誰かと聞かれ、V先生だと言ったら、「知ってるよ」と微笑まれたとか。さらに、「スポーツに興味はなさそうだし、話し方を聞いていると(英国で教育を受けた先生方や友達が多かったので)オーストラリア人じゃないみたいだね」などと言われたりして、オックスブリッジ*の面接試問というのは、知識だけでなく人間の側面を見るという意味で面白いものだなと感じました。

 これらの温かな思い出は、古典語という「役に立たない科目」から生まれました。今思えば、学校生活の中で息子を取り巻く人たちのことを思うと、これほど「役に立った科目」もないのではないかと思います。

*オックスフォード大学とケンブリッジ大学を合わせた呼び方。

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