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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 34 : 「すでに始まって」いる日本の英語改革

 本屋に行くと、さまざまな英語教育に関する書物があふれています。それらの草分けである中津遼子氏の『なんで英語やるの?』(文春文庫)という本は、私がオーストラリアに発った数年後に出されました。

 現在、都心で英語を教える私が、これらの書物に触れて思うことは2点。まずは、論争の焦点が4半世紀前と変わらないこと。あとの1点は、子供たちの英語力が変化していることです。私の生徒のほとんどの家庭が何らかの形で海外生活を経験するか、海外と関連した仕事をしており、小学生で英検2級が珍しくなくなっている今日、生徒たちが日本の英語教育または教師を追い越しつつあり、その状況はさらに拡大していくであろう、という予想です。

 読んだ本の中には、大学受験英語の活用を薦める内容のものもありました。しかし、もし受験英語を活用するならば、その際、内容を吟味できる能力をもった教師を配慮してからにしていただきたい。

 一例を挙げましょう。中1の生徒が、大学受験英語を通信教育で学び、分からない個所を聞きにきました。彼女は小6のときアメリカに1年いた帰国子女で、英検2級にも合格しており、学校の英語に飽き足らず、そのコースを取ったのです。問題は、かっこのA、B、Cの中から、文章を構成するのに適切な語を一つを選べというもの。

 私も即答できず、音読してみたらAの方が自然だけれども、Bも正解のよう。そこで、家に持ち帰り、ネイティブスピーカーである主人と息子に聞いてみました。二人とも正解はA。その後、主人は、「文法的にはBは間違いではない」と付け加えましたが、息子は、「Bなんか今時使ってるやつはいないよ。そんな表現をしたら笑われる」と一蹴。そこで、異論はあるが最大多数で、Aだと彼女に言いました。数日後、添削が帰ってきたのですが、答えはB。

 「外国人でさえ日本の入試問題はできない」と言う方たちの中には、「それくらい難しい英語を日本ではやっているのだ」と誇る気持ちも混ざっているようですが、誤解しないでいただきたい。難しいのではなく、外国人が日常使っていない、すでに死んだ英語、または数年のうちには死にゆく英語でも、文法が正しければ正解とし、生きている英語でも文法に合っていなければ不正解とする、日本の英語教育関係者の無知に問題があるのです。結局、その後彼女は、同様な問題があって、通信教育は辞めました。

 私が所属する英語教室でも問題が出てきました。教室では長文を読むことに重点を置いており、その方針には賛同するものの、長文が高度になるにつれ、それを編集する先生方が文章を把握しきれなくなっています。中には文語調で書かれた長文もあり、驚かされることもたびたびです。文語調は、大げさな抑揚で講義をすると笑いが起こるものの、現代の文章と比較できるという側面もあるなど、一長一短なのですが、生徒たちが笑うということは、文章の不自然さが分かっているからなのですね。彼らは必ずしも帰国子女とは限らないのですが、帰国子女に限らずとも、今後ますます優秀な生徒たちが輩出されるであろうことが予想されます。そのとき教師は、どう対処していくのでしょうか。

 生徒が慕っている優秀な英語の先生を、十把一絡げに非難するのは心苦しいのですが、学校の間違いを訂正せざるを得ないときが頻繁にあります。私とすれば教師への不信を助長するようで、どうにもやりきれません。しかし、弟をsmall brother(正しくはyounger brother)としたり、 tripをバツにしてturipと訂正したり (しかもスペルは間違い)、applesを「エーップルズ」、uncleを「アーンクレ」、と発音する間違いは正さざるを得ません。

 また、期末テストに「赤鼻のトナカイ」の訳を選んだり、教師が70代に近く、生徒の雑談をコントロールできず授業にならない、とこぼした私立高校の生徒もおります。わが英語教室にもThis is a jam. と言ったり、 cupboard をカップボードと発音する先生がいて、帰国子女の小学生は1週間で辞めましたが、各種学校では生徒が辞めればすむことなので、まだ救われます。

 都心の特殊な環境だから優秀な生徒がいるのだ、と言う方もいらっしゃるでしょう。そうかもしれません。しかしながら、日本の英語改革は上からではなく、底辺からすでに起こっており、実力のない英語教師が生徒たちに追い抜かれるのは、時間の問題であることも心に留めておいていただきたい。

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