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小さな英語教室

By Yuri Kiba / キバ・ユリ

オーストラリア人の夫と結婚し、シドニー在住歴24年の筆者が、学校とは離れた教育の場で、子供たちを見ていて感じたこと、考えさせられたことを紹介するコラムです。
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Yuri Kiba / キバ・ユリ

Vol. 36 : 「不安定」な政治の世界に身を置いていたとき・・・

 主人が前回、ビザ延長で移民局を訪れたとき、「伴侶が日本国籍だと永久ビザを取れる」と言われ、日本の生活が気に入っている主人は、その手続きをすることにしました。そんな折、ワインをはさんで出た話…「NSW(ニューサウスウェールズ)州政府から締め出しを食っていなければ、今でも州政府の仕事をしていただろう。この歳で日本に来て、これだけたくさんの日本人と接触できることもなかっただろうし。何が幸いするか分からないものだ」。

 何が人生を左右するのかを考えてみると、本当に不思議な気持ちにとらわれます。

 主人が弁護士になった50年前のオーストラリアでは、白豪主義のみならず、白人の間でも多様な差別があり、多くの弁護士事務所ではカトリック教徒やユダヤ人を採用しなかったとか。今日では考えられません。わが家では、オーストラリアに囚人として来た初代ジョンがプロテスタントだったのですが、2代目ジョンがカトリック教徒と結婚して改宗。このため8代目が法曹界で差別を受けるという皮肉な結果となりました。しかし、大手弁護士事務所で安泰な生活を送っていれば、これまた日本の生活など考えられなかったでしょうから、何とも微妙なところです。

 さて、一応、1961年、26歳で弁護士事務所に入ったものの、同じような訴訟の調停にうんざりしていた主人は、30歳半ば、労働党からノースシドニー市長に立候補。そして当選。それ以来、良くも悪くも、政治とは縁が切れない生活となりました。

 1972年、ウイットラム率いる労働党が23年ぶりに政権を回復すると、主人はキャンベラに馳せ参じ、都市計画局の局長職を得て官僚に。大学で、法学部以外に都市工学の学位を持っていたのが助けとなりました。しかし、数年後、ジョン・カー総督による首相罷免という前代未聞の事態が起こり、首相を支えた人々のほとんどは在野に下って転職。主人も、NSW州の総選挙で労働党が大勝したのを機会に、ラン新首相の顧問アドバイザーの職を得ました。

 それからしばらくして息子が生まれ、より安定したNSW州政府・環境審議会の会長職に転職。40歳半ばのことでした。ところが、大規模な高速道路建設の審議で、広大な森林を切り崩してまで建設するメリットはないと判断し、専門家や住民の意見を全面的に受け入れ、否決。また、海岸沿いの広大な土地に私設の大病院を建設する件では、不必要性のみならず、土地に絡む議員の収賄を報告し、関連業者と組んだ議院から締め出しを食うはめになりました。これがワインをはさんで出た話です。

 締め出しを食ったころ、連邦政府では労働党のキーティングが政権を取り(93年)、今度は連邦政府の環境審議会に請われ会長職に。州にかなりの自治権を与えているオーストラリアでは、連邦政府の環境審議会は、国ベースの審議の必要が生じたときにのみ設定され、毎回役員がアポイントされるシステムをとっています。ですから、一つの件案は州とは比較にならないほど大きく、会長職の地位も高いのですが、仕事としての安定度はありません。

 それでも、幸いに2つの大きな審議を連続して手がけました。その一つは、ビクトリア州海軍基地内の先住民遺跡の保護。二つ目は、クイーンズランド州沿岸の砂採掘問題。この審議は1年に及び、採掘による自然破壊と先住民への影響を考慮に入れ、否決。このときの採決は、後に労働党の選挙宣伝として使われました。

 そしてその直後、主人を高く評価してくれていた地方自治体のラントという方からお声がかかり、10数年以上の争議を経て全く進展を見せなかったシドニー生ごみ処理場問題に着手。この審議は実に2年かかり、公聴会は毎週開かれました。その過程で、住民のみならずNPOやGreen Peaceの説得に成功し、ランドガス利用を含む長期計画を締結させ、現在、その計画に従って、生ゴミ処理施設の建設は最終段階に入っているようです。広大なゴルフコースやテニスコートの下はすべて生ゴミと土を交互に埋めた層となり、パイプによりランドガスが引き出され、電力等に使用されているとか。

 主人は決して、自然保護に傾いていたわけではありません。あくまでも、調査や公聴会から最終採決を下し、ここに、法律を守るという弁護士としての基本があったと思います。また、ウイットラム政権をサポートした人々に共通した労働党精神もあったのではないでしょうか。

 これらの大きな仕事を終えたとき、主人は60歳後半。世代交代の時代を感じていた私は、これ以上主人に仕事がくることをさほど強くは望みませんでした。そんなとき、日本で新しい生活を始める決意をしたのです。

 主人は気難しく、敵も多く作りましたが、今振り返ると、順風でなかった生活から得たもの、これは、予想以上に大きいものでした。日本に住んでいるのもその一片のような気がします。

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